DRY EYE~非感情的ボクシング論~

第11回 LOOK BACK 2025

2025年のボクシング界を総括する

◆PART 1 AROUND THE WORLD <世界編>

文_増田 茂 Text by Shigeru Masuda

週刊ボクシングニュース誌最終号。26年度から月刊誌となった

 2025年度、プロボクシング界はデータ的にはほぼ例年並みの活況を呈していたと言える。また主要専門メディアによる年間MVP(最優秀選手)は、本命・テレンス・クロフォード(アメリカ)、対抗・井上尚弥(日本・大橋)というところで概ね一致をみていた。
 年間1試合だけながら、スーパーミドル級4団体統一王者サウル・アルバレス(メキシコ)に挑み、4団体統一王者同士の一戦に快勝。3階級目の4団体統一達成という名目上最もインパクトの強い勝利を挙げたクロフォードを、年間4度もスーパーバンタム級4団体統一王座を防衛した井上の貢献度よりも上と位置づけたわけである。
 どちらの支持にも一理あるが、個人的には年間2度の統一戦を行い、いずれも傑出した内容で圧勝。スーパーフライ級3団体統一王者となったジェシー・ロドリゲス(メキシコ)も加えたい。この3者は視点を変えれば誰がトップを占めてもおかしくはないだろう。
 ビジネスという視点に立脚するなら、タイトル戦2試合で1億3700万ドルを稼いだアルバレス。1試合で6600万ドルのクロフォードに対し、井上は4試合計で6200万ドル(以上Sportico.com1月14日発表)。該当クラス毎、また個々のボクサーへのマーケットの訴求力から生じる経済規模格差を感じる一方、むしろ軽量級の王者がこうしたランキングに登場すること自体に未視感を覚えたものだった。
 年末に唐突に引退表明したクロフォードも含め、11月度のリング誌PFP(パウンド・フォー・パウンド)ランキングに名のあるボクサーの25年度の消化試合数を再確認した。
 1位クロフォード(1試合)、2位オレクサンドル・ウシク(1試合)、3位井上尚弥(4試合)、4位ジェシー・ロドリゲス(2試合)、5位ドミトリィ・ビボル(1試合)、6位アルトゥール・ベテルビエフ(1試合)、7位中谷潤人(3試合)、8位シャクール・スティーブンソン(2試合)、9位デビッド・ベナビデス(2試合)、10位デビン・ヘイニー(2試合)。平均1.9試合で、井上がいかに突出しているかがよくわかる。
 近年、大手プロモーションと統轄機構による一部のトップボクサーへの優遇措置(甘やかし)が彼らを増長させて試合意欲を削ぎ、試合強度まで損ねてしまっている。それは競技としての根幹に関わる問題ではないか。

■世界タイトル戦線の現況と異変

 2025年度に世界各地で行われた主要4団体世界タイトル戦の総数は119試合+暫定28試合で計147試合(昨年比4試合増)。複数団体統一戦は該当団体が各1試合ずつ計上しているため実数は106試合となる。その団体別比較は下図の通りだ。

 また、これを開催国別にみると、数の上では2試合ずつ減ったアメリカと日本に対してサウジアラビアの前年度13試合から28試合への2倍越えの激増が際立つ。アメリカはほぼ4試合に1試合が暫定戦だった。さらにカナダ、トルコ、ロシア、アルゼンチン、キルギスタン、コスタリカ、リビアの7ヵ国では暫定タイトル戦のみが行われている。

 イギリスのボクシングニュース誌がWeb版で公開した「26年度に実現が期待される5試合」の中に井上尚弥対中谷潤人と並んで名の挙がったスーパーウェルター級のアメリカ人対決、ジャロン・エニス(WBA)対バージル・オルティスJR(WBC)は暫定王者同士の統一戦となりそうだ。彼の地ではInterim(暫定)だろうがRegular(正規)だろうが、もはや集客訴求力の点ではそう変わらない。
 一方、国別年間興行数は以下の通りとなった。上位各国には大きな変動は見られない。

 サウジアラビアは年間14興行にすぎないが、行われた世界戦は総数28試合(実数16試合)。前年に続き世界戦比率ナンバーワンをキープしたものの、世界戦でなければボクシングにあらず、そんな姿勢も垣間見える。
 これとは対照的に、近代ボクシング発祥の地、イギリス・大英帝国の内なる隆盛は特筆すべきものがある。今日の同国2大トップ・プロモーションであるフランク・ウォーレンのクイーンズベリー・プロモーションも、エディ・ハーンのマッチルーム・ボクシングも、以前ほど自国への世界戦誘致に躍起になることはない。
 ちなみに、2025年度に同国内で打たれた興行の集客数のトップは、WBA・WBC・WBO世界ヘビー級王者オレクサンドル・ウシクとIBF王者ダニエル・デュボアの4団体統一戦の9万人。これに続くのがクリス・ユーバンク・Jr対コナー・ベンの同国人ライバル対決の6万7484人。3位が両者の再戦でやはり6万人越え。ユーバンク(ミドル級)とベン(ウェルター級)は共に世界ランカーで父親同士の因縁含みのストーリーもあるとはいえ、ノンタイトル12回戦がメインの興行がこれだけの観客を呼び込むのは驚異的だ。

2試合とも6万人超えのベン(右)vsユーバンク戦

 この興行集客力の点では、サウジやアメリカ、日本がいくら世界タイトルをかき集めても遠く及ばない。同じ島国であり、共に今日のプロボクシングにおけるリーディングカントリーだが、近代ボクシング発祥の地の底力をまざまざと見せつけられる思いがする。

■Riyadh Season+UBO(Zuffa)の行方

 25年度のプロボクシングビジネスは、水面下で近年にない緊張感を漂わせ続けていた。
 事の発端は1年前。UFCのCEOでもあるダナ・ホワイトによる「ボクシング革命」宣言だった。格闘技の総合プロモーション企業Zuffaが数年前から画策していたプロボクシング参入計画が、Riyadh Seasonの仕掛け人であるサウジアラビア総合文化庁のトゥルキ・アルシェイク長官の財政上のバックアップを得て現実化の目途が立ったのである。
 しかも第5の統轄機構として新たに加わるわけではない。1996年に米議会承認の下に制定された“Professional Boxing Safety Act”。これを改訂した2000年の“The Muhammad Ali Boxing Reform Act”に都合の良い項目を付け加えた“Muhammad Ali Boxing Revival Act”の認可を推進。その錦の御旗の下で、現在のメジャー4団体を認めず、階級構成を一新。レギュレーションにも手を入れ、リング誌ベルトをステータス・シンボルに独自のタイトルを設立。競技そのものを一新して興行まで一括管理しようというものだ。
 ホワイトとトゥルキ氏がFounder(創設者)として名を連ねるZuffa Boxingの新規団体名をUBO(Unified Boxing Organization)という。さらにZuffaの上には格闘技団体をまとめて牛耳る巨大企業TKOが存在している。
 当初、オスカー・デラホーヤ、エディ・ハーンら大手プロモーターはあからさまな嫌悪感を露わとしたが、4大メジャーは比較的静観していた。WBCはRiyadh Season後援イベントとして“WBC Boxing Grand Prix”の開催を控え、トゥルキ氏との関係性を考慮してかマウリシオ・スライマン会長がSNS上で抑えめの苦言を呈するにとどまっていた。
 4大メジャーの反応が明らかに硬化したのは、UBOによるトップボクサーの囲い込みが激化し始めた昨年後半からのことだ。さらにZuffa Boxingによるテレンス・クロフォード対サウル・アルバレス戦興行の成功。そして試合後にクロフォードが示したWBCへの敵対的発言も危機感を煽ったことだろう。
 10月29日、フィリピンで開催された興行“Thrilla in Manila Ⅱ”のもう一つの呼び名は“IBA-PRO.11”だった。主催のIBA(旧AIBA)と、同大会へプロボクサーのブッキングをサポートしてきたWBAが実現させたアジア圏では初の興行である。
 ところが、興行運営にWBAはタッチせず、これまで反IBAの姿勢をキープしていたWBCのタイトル戦主体の興行となっていた。
 WBCによるサポートが今後も続くなら、それは運営危機に陥っていたIBAの救済と、既存団体連合への囲い込みを意味するものだ。WBCは遂に、Zuffa Boxing(UBO)との全面対決も辞さずと舵をきったのだろうか。
 時を同じくして、コロンビアのボゴタで行われたWBO第38回年次総会で、グスタボ・オリビエリ会長と、ゲスト出席していたIBFのダリル・ピープルズ会長がZuffa Boxing(UBO)への共闘を宣言した。
 昨年目立った暫定王座戦の増加は、統轄機構サイドによる有力プロモーターの興行への忖度に因るところが大きい。契約下にあるボクサーも含めた一括篭絡工作にほかなるまい。
 その極めつけが、WBCがPBCのためにセッティングした、12月6日のライト級暫定王座決定戦だった。スーパーフェザー級タイトル戦の前日計量で失格となったスティーブン・フルトンと、計量を無事パスした王者オシャキー・フォスターを急造の1階級上の暫定タイトル戦に出場させる離れ業をやってのけた。前代未聞のオーバールール処理は当然、SNS上で格好の炎上ネタとなった。

■WBC Boxing Grand Prixの可能性

 前項で触れた“WBC Boxing Grand Prix”は、WBCが以前から開催を目論んでいた若手ボクサー(26歳以下)対象のトーナメント。今回はフェザー、スーパーライト、ミドル、ヘビー級の4階級が実施され、参加ボクサーは43ヵ国から128名に及んだ。
 4月17日の一次予選から12月20日の決勝まで最多で5試合をこなす。優勝賞金は22万ドル。賞金総額は440万ドル。優勝者はWBCシルバー王座挑戦権と発案者である前会長ホセ・スライマン記念杯を合わせて獲得した。
実施4階級の優勝者は以下の通り。
・ヘビー級 ケビン・ラミレス(アルゼンチン)
26歳 12勝4KO2分
・ミドル級 ディラン・ビッグス(オーストラリア)
24歳 18勝9KO1敗
・S・ライト級 カルロス・ウトリア(コロンビア)
22歳 14勝11KO無敗
フェザー級ブランドン・モスケダ(メキシコ)
21歳 13勝10KO無敗
 予選はすべて6回戦で、決勝のみ8回戦で実施された。全127試合中95試合は判定決着。KO・TKO決着が32試合で全体の25%にとどまった理由は、参加ボクサーの実力が拮抗していた点。また、大会用にレイジェスの特製12オンスグローブが使われたことも影響したようだ。
 井上尚弥のレギュラー・スパーリングパートナーであるジャフェスリー・ラミド(アメリカ)はフェザー級1回戦敗退。フィリピンのサンマン・プロモーション期待のジェラルド・イントもスーパーライト級2回戦で敗れた。
 WBCとRiyadh Seasonの協力関係が継続し、26年度も開催されるなら、ぜひ日本のボクサーの参戦も期待したい。大学リーグを経てプロ転向する「キャリア組」にとっては格好のキャリア構築の場となるだろう。

■Zuffa Boxing(UBO)の誤算と今後

 新団体UBOのシンボル的存在になりかけていたテレンス・クロフォードの引退表明は、Zuffa Boxingにも寝耳に水ではなかったか。もしくは知っていて翻意を求めながらもならずというところか。プロモーター、ボクサーの囲い込みにおいて、求心力の強い3階級4団体統一王者の引退という名の離脱は大きな痛手だったはずだ。1月23日の旗揚げ興行の肝心のカードが、遅々として発表されなかった原因もこのあたりにありそうだ。
 2026年になってようやく発表されたラインアップは、スーパーウェルター級ランカーのカラム・ウォルシュ(アイルランド)対カルロス・オカンポ(メキシコ)の10回戦をメインとする全8試合。会場はUFC興行でお馴染みの、ラスベガスにあるキャパシティ1000人ほどのMeta Apexだ。Aサイドに無敗のボクサー8人を揃えたマッチメイク手法はトップランク興行を思わせた。
 だが、ホワイトが広げた風呂敷のサイズに似合わぬのみならず、メインイベントのインパクトもパラマウント+によるレギュラー放送のオープニングにそぐわぬ地味目なイメージは拭えなかった。興行はUFCのYouTubeチャンネルでも無料ライブ中継された。

 UBOは年明けにIBFクルーザー級王者ジェイ・オペタイア(オーストラリア)との契約を発表。3月8日に同じMeta Apexで防衛戦に臨むことも続報で発表されている。
 その数日後、WBC暫定世界スーパーウェルター級王者バージル・オルティス・Jrがゴールデンボーイ・プロモーションとの契約解除を訴える訴訟を起こしたと報じられた。その2試合ほど先に、すでに親UBOを表明しているWBO同級暫定王者ジャロン・エニスとの統一戦があることは言うまでもない。
 さらにSNS上で、クロフォードの翻意を呼びかけ、今が旬のスーパーフライ級3団体王者ジェシー・ロドリゲス(アメリカ)にも契約オファーをかけるなど、スタートで躓いた感のあるUBOだが勝負を見極めるのは、いましばらく先のこととなりそうだ。
 また、もう一人のPFPトップランナーであるWBOを除く世界ヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)は、UBOではなくイベント企業のiVB(i VisitBoxing)と契約。7月11日にサンフランシスコ市内で開催予定の興行で元WBC王者デオンテイ・ワイルダーと対戦する。
 iVBは、昨年、トゥルキ・アルシェイク氏と共同でニューヨークのタイムズスクエア興行を行ったエド・ペレイラが立ち上げたプロモーション。1941年8月16日にウィスコンシン州ミルウォーキー市のジュノーパークでの世界ミドル級王者トニー・ゼール対ビリー・プライアーのノンタイトル10回戦をメインとする無料興行の13万5132人という史上最多観客動員記録の更新を目指すという。
 恐らく、ウシクはこの興行のみのスポット契約だろう。引退まであと2戦を公言するウシクのラストファイトを落札するのはいずれのプロモーションだろうか。

★25年度内実績と試合内容からみたPFPベストテン

ジェシー・ロドリゲス(アメリカ/スーパーフライ級)
井上尚弥(日本・大橋/スーパーバンタム級)
テレンス・クロフォード(アメリカ/スーパーミドル級)
ドミトリィ・ビボル(ロシア/ライトヘビー級)
デビッド・ベナビデス(アメリカ/ライトヘビー級)
シャクール・スティーブンソン(アメリカ/ライト級)
中谷潤人(日本・M.T/バンタム~スーパーバンタム級)
オレクサンドル・ウシク(ウクライナ/ヘビー級)
ジャロン・エニス(アメリカ/スーパーウェルター級)
デビン・ヘイニー(アメリカ/ウェルター級)

★Dry Eye Digest/海外の主要4試合を読む

■天はベナビデスに微笑みかけた

WBA&WBC(暫定)世界ライトヘビー級タイトル戦
2月1日 アメリカ・ネバダ州ラスベガス
デビッド・ベナビデス(WBC暫定王者/アメリカ)
12回判定(3対0)デビッド・モレル・Jr(WBA王者/キューバ)
 共にスーパーミドル級王者からの転向2戦目。身長・リーチはベナビデス(28歳)188㎝・199cm(189㎝説あり)。モレル(27歳)が185cm・195㎝。レコードは29勝24KOと11勝9KOの無敗同士。アマで15勝無敗。16
歳にしてメキシコでプロデビューした前者に対し、アマ実績では16年のAIBA世界ユース選手権で優勝。翌年はシニアのキューバ選手権を制したモレルが大きく上回っている。
 試合はベナビデスの強気の攻勢がモノを言った感がある。ハンドスピードではモレルが勝り、上体も柔軟に振りつつ切れの良いステップを踏んでテンポよく打ち出すパンチ数では12ラウンド中9ラウンドで上回っていた。だが、前へ前へと詰めながらサウスポーのモレルに何ら迷いなく強打でたたみかけてくるベナビデスに圧され、ヒット数では逆に10ラウンドも後れをとり、パンチの効果の点でも大きく見劣りした。
 ベナビデスは腰高の長身で上体の作りは意外に小さい。リーチも実際のところ公称よりも短いはずだ。こうした体型でかつ好戦的なボクサーは、上体を前掛かりにして前に押し出るスタイルが身についていて、ショートブローも巧い。右ストレートでモレルにロープを背負わせ右ボディ、左ボディ、右フック、アッパー、左フックと上下に打ち分けるパンチは、モレルのガードの隙間を実に見事に抜いていった。
 モレルが押さえたラウンドは、右回りのステップでいなしつつパンチの回転の速さで打ち負けなかった3ラウンド。コーナーに詰められながら、この日のベストパンチである左カウンターでグラつかせた4ラウンド。ジリ貧に陥りながらベナビデスの欠点でもある集中力の乱れから右フックでやや幸運なダウンを与えた11ラウンドぐらいのものか。オフィシャルのスコアは118対108に115対110が2人と、ややモレルに好意的に感じられた。

 ベナビデスの「圧」の強さもさることながら、モレルが意地になって打ち合いにつき合いすぎた感は否めない。両者共通のギブンネームである“DAVID”は、ヘブライ語の「天に愛された人ダビデ」に由来する。この日、天はベナビデスに微笑みかけた。

■PFP4位対5位/勝者の不可解な不遇

4団体統一世界ライトヘビー級タイトル戦
2月22日 サウジアラビア・リヤド
ドミトリィ・ビボル(前WBA王者/ロシア)12回判定(2対0) アルトゥール・ベテルビエフ(4団体統一王者/カナダ)

 ビボルのダメージから、ベテルビエフの小差の完勝と言うべき内容の初戦から4ヵ月。再戦に臨む両者の思惑は微妙に交錯していた。
 序盤を押さえられて攻め遅れ、終盤の好機にビボルを捕まえ損ねたベテルビエフは、攻勢を前倒し。5ラウンドに最多数のパンチをヒットして中盤を押さえた。一方、ハイテンポのイン・アンド・アウトでペースを先押さえしながら徐々にパワーで削られ、11ラウンドに窮地に陥ったビボルは、中盤まで初戦よりやや抑えめのボクシングで、終盤のペースダウン回避に努めたのだ。
 フィジカル面に着目すると、両者共に初戦ほど研ぎ澄まされた印象は薄く、ビボルはやや緩めにみえた。攻防両面でのパワーアップのため、スピード低下を招かぬ限度までウェイトをリバウンドさせたのだろう。逆にベテルビエフは、4ヵ月前よりも筋肉が落ち、ややスリムになっていた。それは、ビボルを追い詰めきれなかった瞬発力不足による追い足の鈍さ。うるさく打ち返してくるビボルのパンチへの対応力の向上を図ってのことだろう。
 ビボルはサイドへ逃げるステップを減らし、前後動で間合いを調整して正面対応。初戦の序盤のようなある程度の強度の右を先置きし、またリターンを多用して前後を押さえつつ、ガードの上からの被弾も極力回避した。
 ベテルビエフの追い足は、確かに初戦より軽かったが、ガードの上からでも確実にダメージを与えていた強打まで軽くなり、ビボルの反応動作に余裕を与えてしまった。
 その結果、中盤までにビボルに決定的ダメージを与え損ねたベテルビエフはペースダウン。ビボルは思惑通り10ラウンド以降尻すぼみに陥らず、11ラウンドにこの試合最多のパンチを集中してベテルビエフを突き放した。
 オフィシャルのスコアは全く逆向きに同じ数字が並んだ。116対112、115対113、そして114対114のマジョリティデシジョンだ。

 ロシア開催が確定していたラバーマッチは、ビボルの椎間板ヘルニア罹患・手術によって先送り。IBF1位ミハイル・アイフェルト(ドイツ)との指名防衛戦が優先されそうだ。返上したWBCタイトルの正規王者に昇格したデビッド・ベナビデスは、WBA&WBOクルーザー級王者ヒルベルト・ラミレス(メキシコ)戦を画策中という。
 ところで、PFPランキングに着目すると試合前の段階でベテルビエフが4位、ビボルが5位だった。それが試合後に4位ビボル、5位ベテルビエフと入れ替わっただけ。初戦と同じく接近した内容が表立った理由だとしても、井上尚弥以外の上位2者は試合から遠ざかっており、ビボルは一時的にでもクロフォードに代わって3位とすべきだったはずだ。

■4団体統一王者同士の“Once In A Lifetime”

4団体統一世界スーパーミドル級戦
9月13日 アメリカ・ネバダ州ラスべガス
テレンス・クロフォード(アメリカ)12回判定(3対0)
サウル・アルバレス(4団体統一王者/メキシコ)

 共に2階級で4団体王座を統一したPFPランカー同士の激突という近年最大のハッタリの利いた一戦は、売り手の思惑通りに勝者クロフォードに主要メディア選出の2025年度MVPの称号をもたらした。
 では試合の評価はというと、1月末日時点の発表分で英・ボクシングニュース誌が3位。BoxingScene.comとまだ本決定前のリング誌はいずれもノミネート漏れだった。
 それは、井上尚弥対ムロジョン・アフマダリエフ戦が何処にも見当たらず、井上に関してはダウン応酬のスリリングな激闘となったラモン・カルデナス戦だけがボクシングニュース誌、BoxingScene.com、そしてリング誌のFight of the Yearにノミネートされていたことと基本的に同様の理由に因るものだ。
 コーナーに下がったところ、ジャブから繋いできたアルバレスの右ストレートに合わせて打ち出し、顔面を弾いた6ラウンドのカウンターの左ストレート。9ラウンドにみせた真正面に立ちながら、左ジャブから左ショートフックにつないだコンビネーションは、確かに珠玉のタイミングの職人技だが、いずれも当たれば倒れるような強度には欠けていた。
 クロフォードは実に上手く立ち回り、綺麗にラウンドを重ね、そのまま試合を締め括った。決してバランスを崩すほど強打せず、ディフェンスに穴が開くような連打も見せず、リスクを負わないボクシングに徹していた。その点で、かつての中量級ビッグファイトの数々とは重ならず、緩さすら感じさせた。
 それをクロフォードの巧さゆえと称える一方で、実際のところアルバレスがもはやかつての彼ではないことも同時に理解されていたのではなかろうか。

 欧米メディア、とりわけアメリカンメディアの個々のボクサーに関する“アメリカファースト”傾向にはうんざりさせられるが、試合の評価に関しては、ボクシングの本質的な部分を考慮する気風が不思議と残っている。
 彼らは、一方のボクサーがいかに傑出したポテンシャルを発揮しても、やはり二人分の熱量には及ばないと考える。基本的に微笑ましいほどの激闘好きなのだ。
 試合のパンチ数を測定したCOMPUBOXとJabbr.AIによればアルバレスの総パンチ数は共に338発。クロフォードは534発、552発と誤差が生じたものの、両者合わせても1000発には届かず、ラウンド平均のパンチ交換数は72.67~74.17発ということになる。
 1987年のWBC世界ミドル級戦マーベラス・マービン・ハグラー対シュガー・レイ・レナード戦では両者合計1421発のパンチが交換され、ラウンド平均は118.42発。2013年のWBC世界スーパーウェルター戦フロイド・メイウェザー・Jr対サウル・アルバレス戦は合計1031発でラウンド平均85.92発。さらにアルバレスとゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)による2017年の3団体統一世界ミドル級戦も合計1208発でラウンド平均100発のパンチが交換されている。
 パンチの交換数が多く、ヒット率が高ければ良い試合というわけではないが、これらの試合は強度も密度も高く緊張感に満ちていた。
 スコアは115対113が2人に116対112と何らかの意図が感じられるほど接近していた。典型的なワンサイド・チェスマッチと言うべきクロフォード対アルバレス戦は、ある意味、今日のプロボクシングが直面している本質的問題点を象徴する一戦でもあった。

■「飢餓感」をより多く残す者が勝つ

WBC・WBA・WBO世界スーパーフライ級王座統一戦
11月22日 サウジアラビア・リヤド
ジェシー“バム”ロドリゲス(WBC&WBO王者/アメリカ)
KO10回1分25秒
フェルナンド・マルティネス(WBA王者/アルゼンチン)

 マルティネスにとっては一昨年、井岡一翔(志成)と相対したIBF&WBA同級統一戦こそが、フィジカルもメンタルも最も充実したキャリアベストだったに違いない。
 統一戦ということで、従来のIBFの試合当日朝の計量から解放され、リカバリーに十分な時間を与えられたマルティネスは、夕刻に行われた非公式計量で前日計量時+7.4㎏の59.5㎏を記録。リング登場時には従来のIBFタイトル戦ではみられなかったほど全身の筋肉が膨れ上がっていた。井岡が「効くというより吹き飛ばされる感じ」と表現したパンチも、まさにその賜物だった。
 その後、マルティネスはIBFタイトルを返上。当日朝計量無しの調整に悪い意味で馴化したものか、この日のマルティネスの身体はやや緩めに感じられた。
 ロドリゲスは井上尚弥のように上体も下肢も強靭な筋肉を装備しているわけではないが、基本的に身体軸が強いのだろう。ボディコンタクトでも押し負けることはなく、マルティネスが連打を浴びせかけ、井岡戦のように土台を崩して強打を抑え込もうにも奏功しない。打ち合いでバランスを崩し、クリーンヒットが続かないのはマルティネスの方だった。
 逆にラウンドを追ってロドリゲスの打ち出すパンチの強度も数も上がっていった。とりわけ強く正確な右ジャブと、上下に自在に打ち込む左ストレートはマルティネスに確実にダメージを蓄積していった。狙い打ちの左をマルティネスの顔面にクリーンヒットした5ラウンドには、もうフィニッシュの形がロドリゲスには見えていたことだろう。
 鼻骨を折られたマルティネスはそれでも精一杯打ち返し続けたが、7ラウンドを迎えるころにはロドリゲスにはすっかり余裕が感じられ、右ボディ、左ボディから左フック、アッパー、左ストレートとパンチの展開力が格段にアップ。あとはマルティネスがどこまで耐えられるかという局面を迎えていた。
 そして10ラウンド、右の打ち終わりにオーバーハンドの左リターンを右アゴに打ち込まれてテンカウントを聞かされた。井岡との再戦で同じ10ラウンドに左フックを食い、痛烈なダウンを喫していたマルティネスの十分に想定された散りざまではあった。
 このところ信頼性に乏しいCOMPUBOXの測定では、総パンチ数(717対520)と総ヒット数(276対131)共にロドリゲスが勝り、ヒット率は38.5%対25.2%の大差がついていた。

リング誌26年2月号/井上の顔が怖すぎ

 ロドリゲスについては、とうにピークを過ぎてランク通りのポテンシャルの無いシーサケット・ソールンビサイ(タイ)、カルロス・クアドラス(メキシコ)、ファン・フランシスコ・エストラーダ(同)ら元王者勢を蹴散らしていた頃は攻めの合間の隙も多く、まだPFP上位の評価はできずにいた。だが2025年は良いステージアップの年になったようだ。
 現在のロドリゲスには、ちょうど井上尚弥がスーパーフライからバンタム級へと駆け上がっていったころと同様のプラスアルファの自信と勢いが満ちている。そしてマルティネスと決定的に異なるのは、さらに上を希求する底なしの飢餓感を失っていないことだった。

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