[7月18日 米国カリフォルニア州サンバーナディーノ ProBox興行]
Photos courtesy of ProBoxTV Text by Yuriko Miyata

“ラ・コブラ”が元五輪代表フュークスに雪辱。晝田との統一戦望む
WBC女子スーパーフライ級チャンピオンのアデライダ・ルイス(米国 19勝8KO1敗1分)が指名挑戦者で暫定チャンピオンのジーニー・フュークス(米国 4勝1KO1敗)を3対0の判定で破り、タイトル初防衛に成功した。WBOチャンピオンである晝田瑞希(三迫)の対抗王者であるルイスは、スパーリングで手合わせした経験もあるライバルとの統一戦を、「もちろん実現させたい。どのチャンピオンもターゲットだけど、彼女は同じロサンゼルスで練習しているし、間違いなくいい試合になると思う」と熱望している。
望む“LA対決”に近づく前に、どうしてもクリアしたかったミッションが、今回のリベンジだった。2024年8月、当時保持していたWBC同級暫定王座を懸けてフュークスと対戦した時、東京オリンピック代表のサウスポースタイルをとらえきれず、判定で敗れている。フュークスがその時の負傷でブランクを作る間、ルイスは昨秋の再起2戦目でアレクシス・クビッキ(カナダ)に勝って空位のWBC正規王座を獲得。願ってもないフュークスとの再戦が、WBCが義務づけた団体内統一戦として実現したわけだ。

そして約2年ぶりの再戦で、ルイスは明白な勝利を手にした。
前戦と同じくハイピッチの攻防で、アウトボクシングから上手にヒットを挙げるフュークスを冷静に追った。前回、焦って追いかけてはバランスを崩した反省を生かしたという。「彼女がプレッシャーを嫌がるのは間違いない。でも、ただ押せばいいわけじゃない。脚をうまく動かして賢く圧力をかける方法を勉強してきた」というとおり、無駄のないステップワークで距離を詰め、4回あたりからパワーヒットがはっきりと増えた。終盤になっても脚も手数も衰えないフュークスを粘り強く追って叩き、96対94、97対93、99対91とジャッジ三者の支持を勝ち取った。
「世界タイトルを獲った時よりうれしい。彼女に勝って、自分の力を証明したかった。とても個人的な戦いだった。前回は自分でも優位を示しきれなかったと思うけれど、今回は自信を持って判定を聞けた。長年ボクシングをやっていても、学ぶことはいくらでもあると感じる」、 チャンピオンは満ち足りた表情でそう語る。
30代後半で花咲いた苦労人だ。
ティーンのころから“ラ・コブラ”と呼ばれ、評判のアマチュア・ファイターだった。のちの世界王者、アバ・ナイト(米国)、カリシャ・ウェスト(米国)らも破っている。17歳で母となり、3人の子を産み育て、およそ10年の沈黙を破って28歳でプロボクサーになった。旺盛な攻撃力でローカル・ファイトを沸かせ、プロモーターの後ろ盾もないまま地道に戦い続けて世界王座にも到達した。そんなチャンピオンは、まもなく20歳になる長男を筆頭に3人の子を育てるシングルマザーであり、フルタイムの看護師として仕事も続けている。
「そりゃ大変です。でも、できないことじゃない。本気で望むのであれば、やるだけ。子どもたちが本当によく助けてくれるし、家族の勝利でもあるわ」。
まぎれもないスーパーウーマンである。
トップロープ崩落にも心乱さず、難敵を撃破

レフェリーが転んだり照明が消えたり、さまざまなアクシデントに遭遇してきたが、この日はリングのロープの最上段が崩落する事態があった。
試合の真っ最中である。無敗のスーパーウェルター級、WBC米大陸王者のケビン・ジョシュア・アントン(米国 14勝12KO)が経験豊富な中堅フラジミル・エルナンデス(メキシコ 17勝7KO8敗)をロープに詰めて猛攻していた、2ラウンド終盤だった。突然、トップロープがずるずると落ち始めた。すっかり緩んで機能せず、試合は中断。両選手はニュートラルコーナーで待つことに。リングのロープがピンと張っていられるのは、すごい物理と技術によるのだと気づかされる。何人も寄って、復元するのに13分ほどかかった。その間。ストップ勝ち目前だったはずのアントンは、いつ再開してもいいように体を動かし続けていた。そんな姿を、よりによってアントンの出番でこんなアクシデントが起きるものか……という思いで見ていた。
ロサンゼルス地区のあるジムで、世界ランカーたちのスパーリングパートナーを立派に務める4回戦ボーイとして出会って以来、この技巧派の長身サウスポーに注目してきた。目利きとして知られたボクシング・マネージャー、故キャメロン・デンキンに見出された逸材というのはうなずけた。しかし、なぜ、と思うほど不運がつきまとう。同氏が健康を害して放出され、コロナ禍も重なって試合が枯れた。計量に相手が来なかったこともある。それでも翌日にはジムに現われて、黙ってスパーリングの順番を待つ穏やかな青年は、「世界チャンピオンになりたい」と澄んだ目で言った。
昨年、正式にProBoxとプロモート契約。試合頻度が上がり、今年3月の前戦では空位のWBC米大陸王座を獲得した。ただし、対戦者だった元世界上位ランカーのクドラティロ・アブドゥカホロフ(ウズベキスタン)が、初回を終えて頭痛を訴え、試合終了。あっけない形の初戴冠になってしまった。それだけに今回の初防衛戦は、内容を見せたい気持ちが前面に出ていた。相手のエルナンデスは、元世界王者のアルフレド・アングロ(メキシコ)やジュリアン・ウィリアムス(米国)に判定勝ちし、数々の世界クラスと渡り合ったサウスポーファイター。世界ランク入り目前という位置にいるアントンにとって、格好のテストでもあった。

スタートからアグレッシブに出るエルナンデスを、アントンは得意の左アッパー、ストレートで迎え撃った。2回には左ヒットを機にロープ際で連打をまとめ打ち、冒頭のアクシデントに見舞われたが、再開後もベテランと打ち合った。こつこつと正確に当てる多彩なコンビネーションは総計1200発以上。その中にあるブロッキング技術も目を引く。試合終盤は何度も、ストップ目前に追い込んだ。最終10回には少し打ち込まれたが、ジャッジ二人がフルマーク、残る一人も99対91という大差判定勝利を収めた。
「あとちょっとでストップできる、というところでの中断は本当に悔しかったけど、ファイトプランを頭の中で何度も言い聞かせて、気持ちを切らさないように努めた。でも、相手は間違いなくタフだった。今までの試合とは違った。貴重な経験だった」と振り返る顔に、傷は見当たらなかった。激戦区スーパーウェルター級での世界ランク入りへ、「自分のボクシングを少しずつ上達させて、近づいていると感じている」と、どこまでも謙虚な27歳である。
グアテマラのホープに、日本との縁
ProBoxが売り出す21歳のグアテマラ人、ウーゴ・メンデスが全勝レコードを8(うち4KO)に伸ばした。
同プロ傘下でグアテマラ初の世界チャンピオンとなったWBC暫定スーパーミドル級王者レスター・マルティネスを敬愛するライト級ホープは、生まれ育ちはテキサス。この日はカリフォルニア初登場で、地元のウィリアム・キング(米国 6勝3KO5敗2分)に終始ロープを背負わせて、フルマークの判定勝ちだった。
シャープなジャブでプレッシャーをかけ、長い腕を生かした左ボディや右フックをテンポよく繰り出す、攻防一致の好ファイターである。「アマチュア時代からプロ向きのスタイルだと思っていた」と自己分析し、納得できぬ判定に嫌気がさしてパリ五輪を目指すよりプロ転向を選んだという。
そんな若者は、日本に縁があると明かした。2022年、スペインで行われた世界ユース選手権に出場した時のこと。主催から提供されるはずの赤色のバンデージが足りず、「試合が済んだ選手から借りるように」と言われたものの、どの国の選手も差し出してはくれない。途方に暮れているところを救ってくれたのが、日本人だったというのである。父でマネージャーでもあるウーゴ・シニアは、「ありがたかった。だから私たちは、日本を訪れたことはないけれど、特別な国なんです」と話した。
恩人は、誰だったのだろう……。プロになったメンデスの活躍を、見ているだろうか。勝ち続けるうちに、いつか再会の機会があるかもしれない。

中谷潤人のスパーリングパートナーが8ヵ月ぶり実戦
スーパーライト級の世界ランカー、ブライアン・フローレス(米国)とジョナタン・ナバロ(米国)によるメインイベントの後に回った3試合の、3試合目。8時間近くに及んだ興行の“大トリ”を務めたのは、ディエゴ・アビレス(米国)だった。同じ南カリフォルニアで、マッチルームの興行が行われたこの日、”裏興行”と認識されるべきProBox興行を選んだ理由の一つが、彼の存在だった。名前に聞き覚えがある人もいるかもしれない。井上尚弥(大橋)戦に向かう中谷潤人(M.T)のロサンゼルス合宿中のスパーリングパートナーだった20歳である。
「はじめから、メインの後だとは聞いていたのでさほど待ち時間が長いとは思わなかった。応援に来てくれた家族や友人たちも、ちゃんと最後まで待ってくれたしね。だから、いいところを見せようと思って、一生懸命にKOを狙ったんだけど」。
コンスタントな左ジャブから右強打、左ダブルと、強いパンチをどんどん繰り出して相手のハイメ・ハソ(米国 8勝2KO3敗2NC)を終始下がらせた。右カウンタ―、左ボディを被弾しても一向にアビレスの攻勢は落ちず、終盤は粘るハソも根負け寸前に見えたが、規定の6ラウンドは終了。アビレスのフルマークの勝利となった。
アマチュア時代に国内タイトルをいくつも獲った。それでも2024年夏のプロデビューから中小興行を渡り歩くプロ生活である。昨年11月の前戦で日本でもおなじみのフィリピン人、リト・ダンテに6回判定勝ちしたあと、次戦を待つうちにWBO世界フライ級チャンピオンのアンソニー・オラスクアガ(米国)のスパーリングパートナーを務め、そのチームメイトである中谷とは100ラウンズ以上、手合わせしたという。さらにWBA&WBC統一世界フライ級王者リカルド・サンドバル(米国)のキャンプにも出向いており、実戦は8ヵ月ぶりでも、「世界チャンピオンたちとのスパーで、今までよりずっと自信を持ってリングに上がった」という。パウンド・フォー・パウンドに名を連ねる中谷とのスパーは、毎回、反省と対策を練り、とくに「脚でボクシングを組み立てる」ことを学んだ。
この日の勝利で6戦6勝4KO。「何らかのベルトを獲りたい」と目標を語る。世界王者たちの練習パートナーとして記憶されるのは、本意ではないはずだ。

番狂わせ二つ。W杯決勝スペイン勝利の吉兆?!
二つのアップセットがあった。
一つめは、スーパーフライ級6回戦。5戦5勝5KOだったロベルト・ガルシア門下のルイス・コリア(米国)が初黒星を喫した。もっとも、破ったユスニエル・アブラアンテ(キューバ)にとっては「番狂わせ」ではないのだろう。
キューバのサウスポーは、終始先手をとった。初回から左を上下に打ち分けた。2回に右まぶたをカットするアクシデントがあり、3回開始前にドクターチェックを受けて続行を許されると、ますます忙しく手を出し、4回には猛攻を仕掛けた。コリアは文字通り手も脚も出せずに終わった。59対55が二者と60対54の3対0で勝利したアブラアンテは「誰が見ても勝ちという試合ができたと思う」と胸を張った。3年前に、中谷潤人のチームメイト、エイドリアン・アルバラード(米国)に初黒星を与えている。戦績はこれで、10戦8勝1KO2敗となった。

もう一つは、メイン後にあった、フェザー級6回戦。8ヵ国語を操り世界中の選手と契約するウルグアイ人プロモーター、サンプソン・レウコビッチが後押しする若手オスカル・ボニファシーノ(ウルグアイ)と、謎のスペイン人、ラウル・エスクデロ、ともにアメリカ初登場で無敗という二人の顔合わせだった。アメリカの4回戦、6回戦でヨーロッパの選手を見るのはまれである。まして、サンプソンが売り出そうというホープと、無敗レコードを懸けて戦おうとはるばるやってきたエスクデロとは、どんな選手なのか。試合は、想像どおり22歳のウルグアイ人が才能を誇示せんとばかり速いコンビネーションで旺盛に攻めた。ところが、ロープを背負うエスクデロは、相手の猛攻のスキにビッグパンチを差し込んでみせるのである。速い動きに惑わされず、右オーバーハンド、左フックをカウンター。ボニファシーノのペースを乱して、5回には左ボディを効かせ、59対55、59対55、57対57の2対0の判定で勝利をつかんだ。呆然とするウルグアイ人の横で歓喜するスペイン陣営は誇らしげだった。翌日のサッカーW杯決勝、スペイン対アルゼンチン戦の行方を暗示するような、劇的勝利だった。
