この一戦を予想する① 八重樫 東 さん

「フルトンはクリンチと左ジャブ。おおざっぱに言えばその二つ」

元世界3階級制覇チャンピオン

八重樫 東 さん

  

 





 

  フルトンは上体がしっかりしていて、足がとても細い。典型的な黒人体型ですね。ジャパニーズ体形の尚弥とは真逆です。尚弥は下がしっかりしていますから。そこを生かせるボクシングをしていければいいと思っています。

  フルトンの映像は、合宿中に真吾さんと一緒にブランドン・フィゲロア(アメリカ)戦、ダニエル・ローマン(アメリカ)戦などを見たんですが、第一印象は「めんどくさい」、「厄介だなぁ」でした。いちばんはクリンチですね。それと左ジャブ。大雑把に言えば、そのふたつの選手です。

 フルトンのジャブが生きる距離は、彼がクリンチをできる距離でもあると思うんです。だから、とにかくクリンチをさせない距離で展開するのが理想。そのために、左で差し勝って、プレスをかけてペースを持ってくること。尚弥はボクシングIQが高いので、そのためにはどうすればよいか、いろいろと練って取り組んできたことと思います。まずはそこが第一関門です。

 右はオーバーハンドで側頭部を打ってくるのが特徴ですが、ミサイルのような右は打ってこないので、とにかく左手をどうやって封じるか、ですね。

 ここからは僕が勝手に考えているイメージです。尚弥はプレスをかけていても、退く能力が高いんです。だから、クリンチをさせないバックステップを踏めるはず。そして、相手に絡ませない空間を常に作っておくのが巧いんです。スパーリングのとき、昔からいつも真吾さんが「行きすぎるな」って指示を送っているんですが、きっと、そうやって間合いをキープすることが染みついているんだと思います。だから尚弥はほとんどクリンチをさせない。尚弥の試合でクリンチってほとんど見たことないですよね。なので、距離のキープをきちんとやり続ければ、クリンチはされないなと思います。

 フルトンは基本的には後ろ足に軸があって後ろ足重心にして距離を制圧する。フロイド・メイウェザー(アメリカ=元世界5階級制覇チャンピオン)やテレンス・クロフォード(アメリカ=世界3階級制覇王者、現WBO世界ウェルター級チャンピオン)もそうですが、彼らは足が長く、スタンスも広いので、前足を置く位置で距離を取る。そうして前に構えている手を自由に使うことができるんです。

 フルトンは左足のかかとでキャンバスを蹴りますが、尚弥はつま先を使ってステップイン、ステップバックする。でもきっと、つま先を使うほうが、スピードが速いんです。だから、フルトンの退き際に尚弥は打つことを考えているでしょう。

 フルトンのクリンチのパターンとして、右のオーバーハンドからというのもありますね。うちのジムでいえば、保田克也(WBOアジアパシフィック・ライト級チャンピオン)タイプ。後ろに構えている手のパンチを出して、そのまま体を密着させる。だからその奥の手、つまりフルトンの右のパンチを、尚弥は体のどこかにでも当てさせないということも重要になってきます。

 尚弥がロサンゼルスでキャンプをやったときにスパーリングしたアダム・ロペス(アメリカ)。フルトンは彼に右を直撃されてグラついた(2017年12月、フルトンの8回判定勝ち)んですよね。ああいう展開が理想なのかなと思います。フルトンの左の引き際に合わせる右。尚弥はそれも上手いから、そこは相当に警戒してくるでしょうけど。

 フルトンの足は自ずと下がっていくでしょう。そして、尚弥は隙のないプレスをかけていくことができる。フルトンがどのパンチを出しても尚弥のカウンターが飛んでくる。相手が打つ手なしになってしまうようなプレスです。なんだかんだいって、普通にボコーンと勝ってしまう気もしてきてしまいますが。

 ただし、フルトンのメンタル・タフネスは彼の強みです。フィゲロアとの試合で、あれだけロープに詰まりながら、それでもガチャガチャと打ち返す。あんなに押し込まれて、かなりしんどかったはずです。でも、苦しい表情を浮かべずに、クリンチをして打ち返す。海外の選手は日本の選手と違って、ああいう展開になったら音を上げる選手が多い。でも、フルトンはそうはならなかった。あの試合で得た自信もかなり大きいでしょう。だから尚弥にプレスをかけられても、崩れていかないメンタル・タフネスがあるかもしれない。尚弥も打っても打っても「あれ?」ということが起きるかもしれない。だからその点は警戒しないといけません。

 フルトンは自分自身のボクシングをよく知っているから、それを完遂する能力が高い。でも、尚弥もポイントアウトでもいいから、とにかく勝てばいいんです。

やえがし・あきら◎大橋ジム、生涯戦績35戦28勝(16KO)7敗。世界3階級(WBAミニマム、WBCフライ、IBFライトフライ)制覇。現在、大橋ジムでトレーナー。

   

コメントを残す

The Boxersをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む