「あれだけ恐ろしい井上くんを相手に、どういう作戦を立てるんだろう」

元WBC世界スーパーフライ級チャンピオン
佐藤 洋太 さん
井上くんが負ける感じしないっすね。フルトンには目には見えない強さもあるんだろうけど。井上くんが倒される感じはしない。
オレは3ラウンドまでに決まる気がしますけどね。ただ、やっぱりフルトンは上の階級の強いパンチに慣れているから、そこはわからない部分だけど。でも、井上くんはフェザーに行くまでは負けない気がします。ノニト・ドネア(フィリピン)もフェザーで引っかかったっスよね。ニコラス・ウォータース(ジャマイカ)に倒されて。得意の左フックが当たったのに、ウォータースはグラついたけど倒れなかったですもんね。あれが「階級の壁」なんでしょうねぇ。でも、井上くんもスーパーバンタムまでは大丈夫だと思います。
やっぱり、井上くんの強いパンチにフルトンが慣れる前の、前半KOかなぁ。でも慣れられて粘られたら……。井上くんもKOを狙ってるだろうから、後半倒しにいくけど、仕留めきれ…いやいや判定は考えづらいなぁ。どっかで捕まえちゃうだろうなぁ。
「パンチに慣れる」っていうのは、「見える」っていうことです。スピードとかタイミング、パンチの出所とかを把握してしまうということ。まともに貰い続けて体が慣れるということでなく。「あ、来る!」ってちょっとでもわかって貰うパンチは効きませんから。逆に、わかってないパンチは効きます。「見える」「見えない」、これは全然違います。
フルトンは耐久力もありますしね。だから、ある程度見えて慣れてしまう前にバタッと倒しちゃうのが確率的に高いかなぁ。井上くんは詰めも鋭いっスからね。慣れられちゃっても後半KOですかね。
やっぱり井上くんのパンチにフルトンは最初びっくりすると思うんですよ。「何これ!」って。オレも、井上くんも戦ったウォーズ・カツマタ(勝又/フィリピン)と試合したときは驚きましたから。でも彼はモーションが大きかったから耐えられたけど。
フルトンも井上くんのアレ、最初もらっちゃうんじゃないかなぁ。速いっスもんねぇ。モーションもないし。ただ一流の選手はそこをやり過ごしちゃいますからねぇ。どうなるんだろう。
井上くんの試合を見るときは、自分だったらどうやって戦うかっていつもいろんなシミュレーションを立てながら見てますが、どうやったって無理っスねぇ(笑)。もう、河野公平さん(元WBA世界スーパーフライ級チャンピオン)戦法しかない。ガッチリとガードを固めて、接近戦を仕掛けて、とにかく硬い頭やヒジを打たせて、手を壊させてなんとか後半……みたいな。
ジャブでも差し勝てない。トリッキーなことをしても引っかからない。パンチが強い。カウンターも取れる。そしてディフェンスが抜群に巧い。井上くんの不安要素は拳だけだと思うんです。
アウトボクサー系でがっつりさばける、たとえばギジェルモ・リゴンドー(キューバ=元WBA・WBO世界スーパーバンタム、WBA世界バンタム級王者)とかロレンソ・パーラ(ベネズエラ=元WBA世界フライ級王者)とか、ああいう足が速くてさばき続ける選手。いやいや、でも井上くんはパンチ力あるからなぁ。さばけないかなぁ。
接近戦に持ち込んじゃえば、パンチの威力は多少落ちるから、試合を長引かせることはできる。そうしてチャンスを探るしかないですね。フルトンはアウトボクサーだけど、打ち合いにも来るじゃないですか。だから、どの戦法で来るかですね。
中間距離が得意同士、でも、井上くんのパンチは怖いから、フルトンがいきなり距離を詰めて仕掛けることも考えられるけど、でもその時点で自分のスタイルを崩してることになりますからね。
フルトンが接近してアッパーとかボディ打ちとかしてくるかもしれませんが、オレだったら左フックのカウンターが怖いから、特にアッパーは絶対に打ちません。右手をガチっと顔につけて離せません。
勝敗のポイントは井上くんの拳のケガ。それだけっスね。自分だったら、河野戦法でケガをした井上くんを、相当の被弾覚悟で追い回して、なんとか長引かせて判定まで持ち込んで、わずかなポイントを拾う。本当にそれしかない。ただ、自分が負うダメージはヤバいっすよね。試合後に何か起きてしまう覚悟をしなければならない。井上くんのパンチは、そういう恐怖を持ったものですから。
まあ、それでもさばかれるかなぁ。「左手1本の井上くんとやって勝てますか?」って訊かれたら、「勝てます」とは言えません。左手だけの井上くんになって、初めて同じ土俵に立てるくらい。そこからがスタート。その時点で自分の体はすでにボロボロですけど(笑)。そういうレベルの選手ですよ井上くんは。
フルトンはあれだけ恐ろしい井上くんを相手にどういう作戦を立てるんだろう。それがいちばん興味ありますね。
でもオレは井上くんの限界を知りたいから。フェザー級の井上くんを本当に楽しみにしております(笑)。
さとう・ようた◎元WBC世界スーパーフライ級チャンピオン。 30戦26勝(12KO)3敗1分 。現在、焼肉酒場マグマ(岩手県盛岡市大通 3丁目9-2)オーナー。 焼肉酒場マグマ店主の私的blog(https://ameblo.jp/challenger-sk8/)