この一戦を予想する③ 小國 以載 さん

「お互いカードをどう切り合うか、めっちゃ楽しみ!」

元IBF世界スーパーバンタム級チャンピオン

小國 以載 さん





 僕がスーパーバンタム級の日本チャンピオンで、スーパーフライ級の井上くんとスパーリングをしたときに、スーパーバンタムでも驚異的なパンチ力だったので、問題なく通用すると思ったんですが、メキシコやアメリカで長年戦ってきた坂井祥紀(横浜光=日本ウェルター級チャンピオン)に訊くと、向こうの選手はフィジカルもパンチのパワーも全然ちゃうらしいから。ブランドン・フィゲロア(アメリカ)の強いフィジカルを受けながら勝ったフルトンが、「あれ、思ったよりイノウエのパワーないぞ」って感じたとしたら、そこそこやってまうんちゃうか、と。井上くんがエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)戦の1ラウンドのように下がらされる展開、フルトンとの技術の駆け引きで引く展開になったときに、どうなるんやろと。

 フルトンはパンチがめっちゃ強いって選手じゃないけど、相手を倒されへんパンチではないと思う。僕も思いっきり打ちにいくタイプではなく、3発目を軽く打って逃げたいみたいな感じでしたから。リスクを負うよりも、12ラウンドやるための体を作っているので、早く倒しにいく必要性を感じていなかったからフルトンの考え方、ボクシングの作り方はわかるんです。

 井上くんが不用意に、強引にプレスをかけていくと、マニー・パッキャオ(フィリピン)がファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)の右カウンターで倒されたようになる危険性もあると感じます。

 ほんまのファーストコンタクトで井上くんのパンチ力にビビって、この前のポール・バトラー(イギリス)戦のようになってしまったら、井上くんの独壇場。でも、フルトンもここまでトップでやってきてるので、バトラーのように逃げ回る展開にはならないと思う。

 フルトンがどの選択肢で来るかに興味がありますね。僕やったら下がらない。どっちかというと前に出たい派。井上くんが来た分だけ下がる、必要以上に下がらない。でも、フルトンは下がって追わすのか、前で潰すのか。その出方次第ですね。

まあでも結果的に、井上くんが勝つのかなと思ったりもします。地の利もありますから。

「井上圧勝」みたいなムード、このプレッシャーを井上くんはどう感じているのか。そこは気になりますね。僕らも「勝つ勝つ」って言われるとプレッシャーかかりましたもん。逆に「負ける」って言われてると、気が楽でしたから。

 井上くんが「この階級が最後」って言った、と前に聞きましたが、それって自分でも感じてるんやないかと。井上くんがロサンゼルスに行ったときに、スーパーバンタムのトップランカー、アザト・ホバニシアン(アルメニア)とスパーした映像を見たんですが、フィジカルで押し込まれてるシーンがあった。ホバニシアンは世界ランカーだけど、チャンピオンじゃない。だから井上くんの中で、「ああ、やっぱり本場の世界のトップクラスはやっぱりパンチも体も強いんだな」って思ったと思うんです。井上くんのカウンターもバリ~って入ってたので、試合やったら倒してたのかなとも思うんですが。

 フルトンがバンタム級上がりの井上くんに、「あれ? 予想外にパンチも体の力もあるな」って思わせる可能性もある。フルトンの「イノウエ、意外にパワーないな」っていうのと、お互いの予想外がバチっと生じる可能性がある。そうなったときに、さてどうなるか……とかいろいろ考え始めたら、もうわけわからんようになってまう。そのくらい、ややこしい試合ですね。

 それもこれも、フルトンが今が全盛で、カメレオンみたいなやつで、頭がいい選手だから。これがマーロン・タパレス(WBAスーパー・IBF世界スーパーバンタム級チャンピオン)やったら、井上くんが普通に倒すなって思えるんですが、フルトンはそれくらい凄い選手やって思ってます。

 僕がジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)と試合してチャンピオンになったとき、「あれ、思ってたよりスピードないな」って思えたんです。スピードがもっとあると想定してたので。だから、「これは勝負できる」と思えたんです。でも、その想定を越えられていたら、正直キツかったと思います。だから僕は常に相手を高めておくんです。ボクシングって、そういうパフォーマンス以外でのメンタルが本当に大事になってくる競技なんです。

 今度のスーパーバンタムで、減量苦から解き放たれた井上くんが、スーパーフライの初っ端のように爆発的に強くなる可能性もある。この先、フェザーでも相手次第では獲れるとも思います。でも、今までのように絶対的な無双ではなくなってくるんちゃうかなと。

 フロイド・メイウェザー(アメリカ)は相手に打たせてカウンターを取る“後の先”、カネロ・アルバレス(メキシコ=4団体スーパーミドル級王者)は自分からどんどん仕掛けていく“先の先”、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン=元世界3団体統一ミドル級王者)はどっちも使える選手。井上くんもフルトンも何でもできる選手だからこそ、お互いがどのカードを切ってくるか、それが楽しみですね。

 僕らからしたら、彼らはカードを持ちすぎていますから。相手が切ってきたカードによってどんどん変えていける。たいがいは今までやってきたボクシングを変えられへんのに。

 ボクシングってカードゲームやと思てるんです。お互いが1から12までの例えばスタミナカードを持っていて、1ラウンド目に何の数字を出すかやと思うんです。で、僕はギリギリで取ったやつが勝つと思てる。例えば初回に12を出したらめっちゃ損やないですか。KOで勝つ可能性もありますが、逃したらもう12はない。だから2を出したときに3を出してくるようなやつがめっちゃ強いと思てるんですよ。

 お互いカードがなくなっていくわけじゃないですか。ラウンドが進んで、自分にまだスタミナがあるときに、相手が3で来たら4で取りにいくとか、相手が4で来たら3で負けとことか、1でこのラウンドは捨てようとか。

 栗原慶太くん(一力=東洋太平洋バンタム級チャンピオン)との試合の4ラウンド中、取られたって空気があって、でも、取られて捨てようと思ってもよかったけど、ペースの取り合いの中で、まだ完全にこっちに流れてなかったから、「ここは退いたらアカンとこや」と思って、下がらんとカウンター狙いにいきましたけど、あれが中盤とかで、ある程度ゲームを取ってたら捨ててましたね。

「ああもうこのラウンドは至近距離ででディフェンスしながら打っとる雰囲気だけ出して、相手にワーッと打たせてバテさそう。相手におっきい数字出させといて、自分は低い数字で今回は耐えしのごう」みたいな。で、「さっき8出したから9は出して来んやろう」とか、「こっちがダウンしてたら9、10出して来るやろうけど、きっと6くらいやろうから、7出して取りに行こう」とか。

 そんな感覚で今度の試合を見てみると、お互いがカードをどう切り合うか、めっちゃ楽しみです。井上くんがドーンってデカいカードを最初から出して、終わる可能性もありますけど。

おぐに・ゆきのり◎元IBF世界スーパーバンタム級チャンピオン。戦績25戦21勝(8KO)2敗2分。現在、
Be STAR FITNESS BOXING GYM(東京都台東区浅草橋1-18-9山上ビル地下1階)会長
https://www.bestarboxing.com/
オフィシャルブログ「大金星王者だ!」(ameblo.jp/oguniyukinori/)
Instagram(oguniyukinori

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