REVIEW 10.28 オシャキ・フォスターvsエドゥアルド・エルナンデス

虎穴に乗り込んで虎児を得たチャンピオンに拍手喝采。

最終回、劇的なストップ劇だった Photo: Ed Mulholland/Matchroom.

10月28日、メキシコのリゾート地カンクンで行われたマッチルーム興行で、WBC世界スーパーフェザー級チャンピオン、オシャキ・フォスターが、猛打で鳴らしてきた挑戦者エドゥアルド・エルナンデスを最終回にストップ。初防衛に成功した。チャレンジャーの母国に敢えて乗り込み、驚くほど偏ったスコアもすべてひねりつぶす天晴れな仕事に、フォスターの株は爆上がりだ。

Text_宮田有理子 Yuriko Miyata 

Photos_ Ed Mulholland/Matchroom  Melina Pizano/Matchroom

☆WBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチ

〇 オシャキ・フォスター(アメリカ) チャンピオン 23戦21勝(12KO)2敗

  エドゥアルド・エルナンデス(メキシコ)挑戦者1位 36戦34勝(31KO)2敗

  TKO12回2分38秒

  ※フォスターが初防衛に成功。

小さなリングをものともせず

 地元の声援を受けるメキシコ戦士打ち勝ち、劇的な11回からの最終回ストップ。戴冠から8カ月たってやっと初防衛の機会を得たチャンピオンのベストパフォーマンスは、都会のジム仕様かと思えるほど狭いリングの中にあった。

 目視にもはっきり小さい正方形は、意図的に作られたか否かはともかく、どファイターの挑戦者エルナンデスには好都合。中央に立って2歩でも踏み込めばもう、ロープを背にしたチャンピオンが射程距離に入るのだ。ステップに乗せたディフェンス型ボクシングで勝ってきたフォスターにとっては、ありがたくない環境だったはずである。だがその制限されたスペースの中で、チャンピオンは高い集中力を保ち、とても巧く戦った。

激闘の中でフォスターの巧さが光る 写真: Ed Mulholland/Matchroom.

 立ち上がりからエンジン全開でパワーショットを狙う“ロッキー”エルナンデスを、初回終盤にはフォスターのショートカウンターがとらえた。サイドステップで角度をつくり、右打ち下ろし。ポジショニングの速さでジャブも右ストレートも次々とヒットする。しかし、世界初挑戦のチャンスを母国メキシコで得たチャレンジャーが、猛進を止めるわけはない。早い段階で右目尻をカットし、血を滴らせるエルナンデスの強振が、王者のガードの上にでも襲い掛かるたび、大歓声が沸いた。

 KO率88パーセントの挑戦者は、無傷でここまできたわけではなかった。2014年2月に16歳でプロになり、2019年、27連勝25KOでアメリカのリングに見参。しかしその2戦目で、ベネズエラ人の元ホープ、ロジャー・グティエレスにまさかの初回KO負けを喫するのである。グティエレスにとっては世界王座へ駆け上がる転機となった大勝利であり、生まれたての小鹿のごとく立ち上がろうとしたエルナンデスにとっては、世界スーパーフェザー級最上位から転落する痛恨の初黒星。地元で出直し、6連続KO勝ちでここまで再浮上してきた。

遠回りしたエルナンデスも渾身の戦い 写真: Ed Mulholland/Matchroom.

劇的なフィニッシュへ

 そして、チャンピオンになってもメキシコへ赴かなければならないフォスターも、8歳からのボクシング人生が報われるのはこれからである。

 今年2月に初めての世界戦で戴冠した。オスカル・バルデス(メキシコ)、シャクール・スティーブンソン(アメリカ)を経た空位を、世界2階級王者レイ・バルガス(メキシコ)と争って勝ち取った。不利の予想を覆す明白な勝利も、技巧派同士のフルラウンドは山場を欠いて、新王者誕生はどこかひっそりと。一時契約したプロべラムが実態を失い、フリーエージェントのままPBCプレミアムボクシングチャンピオンズの興行で誕生したチャンピオンには、エルナンデスとの指名防衛戦が義務付けられる。8月の興行権入札に参加したのは、マッチルームのみだった。IBF同級王座に返り咲いた契約選手ジョー・コルディナ(イギリス)の統一計画をもっての動きに違いない。後ろ盾をもたず戦い続けるフォスターは、たくましい。バルガス戦の前にも、コメントしている。

「俺はチャレンジが好きなんだ。アンダードッグでいることが好きなんだ。たぶん、人生ずっと、アンダードッグだったからね。過去に2敗しているから、俺がバルガスに勝てないと予想する人はいると思うよ。俺はバルガスのようにスポットライトを浴びてきてもいない。賭け率を無視していると人は言うだろうね。いいんだそれで。俺はいっそうやる気になる。俺はいつも飢えている。人々の予想を払いのけるのが、俺は好きなんだ。だから俺はいつも喧嘩腰。若い頃からそうだ。この試合も、そのあともそうだよ」

 PBCのページにあるジョセフ・サントリキト記者の寄稿で、彼の来し方、戦う心の拠り所を読むことができる。 

 生まれ育ったテキサス州オレンジは、ラフな場所だったという。ストリートには常に喧嘩のタネ。仲間たちが簡単に命を落とすのを見てきた。ファミリーの中にも、死んだ人も牢屋に入った人もいる。人生そのものが戦い。毎日が戦いだった。

「俺は、俺を知る人たちに、彼らだってできるっていう希望を示そうとしているんだ。俺がボクシングを始めたのは、ママにベルトを持って帰りたい、それが理由さ」

 しかしその日は来なかった。母クリスティ・ウィリアムスは癌のため31歳の若さで去った。葬儀の日は、ゴールデングローブ大会に出場し、トロフィーを持ち帰った。

「ママはきっと俺にそうしてほしかったと思う。今もその道を歩き続けているんだ。オレはもう母がオレを誇りに思ってくれたと思う。今回も勝てば、彼女はうれしいと思うんだ。

 母を失った12歳の少年は、10人のきょうだいとともに父方の祖母の家で暮らし、家族、友達、ジムのトレーナーに囲まれて大きくなった。ボクシングは、危険から身を守る場所だった。自分をまっとうに歩ませたいと願う人々がいる場所だ。そこでフォスターは、自分を信じることを学んできた。リングの中で相手と向き合うのは唯一、自分自身なのだ。

こんなに小さなリングで… 写真: Melina Pizano/Matchroom.

 敵地であろうと、リングに立てば同じ。目の前の相手に勝つ、それだけだ。

 エルナンデスの猛進をカウンターで止めきれずクリンチで封じる場面も多かったフォスターは、6回からサウスポーへのスイッチを交えて、よりはっきりと優位を印象づける。避けて右アッパー。引いたり押したりしながら、疲れが隠せなくなってきたエルナンデスを翻弄する。そして、11回。年間最高ラウンド、と呼び声高い3分が展開する。

 まず左構えで接近したフォスターが左ショートを効かせた。ダウンを拒み、よろめきながらも手を出し続けるチャレンジャーを、コーナーに詰めて連打。時間はまだ2分以上あった。これを耐え抜いたエルナンデスが残り1分を前に、右ショートから猛反撃に出ると、リングサイドも大騒ぎだ。

カンクンの興行主ペペ・ゴメスもハーン、11回の様子 写真: Melina Pizano/Matchroom.

 そんな興奮を経て迎えた最終回だった。

 なお続く激しい打ち合い。足を使おうとしたエルナンデスを、フォスターが右でとらえて、ノックダウン。傷だらけの挑戦者は立ち上がり、粘り続ける。が、再びチャンピオンが右でつかまえ、二つ目のダウン。それでも試合は続行する。血だらけの相手に、躊躇いの表情を隠したフォスターが左右をまとめ上げ、ついにレフェリーストップを呼び込んだ。

「8回あたりで、セコンドに負けてるぞと言われてね。ベルトを失う前に自分の尻を叩いて力を出し尽くした結果だ。ロッキーは本当にとんでもないパンチャーで戦士だった。苦しい戦いだったけれど、彼を捕まえられるとわかっていたよ。9回、10回あたりで右を当てると彼の身体が動かなくなって、攻め切ろうと誓ったんだ。11回に傷めつけた時は、彼が盛り返してきていいパンチを一つもらったから、彼に少しだけ望みをあげたけれど、12回は倒せるってわかっていた。今日のパフォーマンスは、10点中8点かな」

 まさに運命を変える、最終回の猛攻だった。とんでもないスコアが、明らかになるのだ。11回まで、ジャッジ一者が106対103でフォスターを支持していたものの、残る二者は102対107、99対110で、エルナンデスに大差をつけていた。

信頼するチームに囲まれて 写真: Ed Mulholland/Matchroom.

 見事なフィニッシュによって逆境を覆したフォスターは、翌週のコルディナ対エドワード・バスケス(アメリカ)戦の勝者との統一戦を希望した。すなわち、バスケスに辛勝したコルディナとの統一戦、である。

「統一戦をしたい。俺はどこでも戦うってことをもう示しているんだから、イギリスだって問題ない。やろうぜ」  メキシコに赴いたフォスターは、「まだみんな、俺の50パーセントしか見ていないからね。俺はいろんなスタイルを持っていることを見せるよ」と語っていたが、まさにその通り。言葉をきっちり証明してみせた。さて、コルディナ擁するエディ・ハーンは、どう動くだろうか。

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