【熱闘REVIEW 12.26】井上尚弥が魅せた“破壊の美学”+α

タパレス下しスーパーバンタム級も4団体王座統一

 26日、東京・有明アリーナで行われた世界スーパーバンタム級4団体王座統一戦、WBC&WBO王者・井上尚弥(30歳=大橋)vs.WBAスーパー&IBF王者マーロン・タパレス(31歳=フィリピン)は、井上が2度のダウンを奪った末、10回1分2秒KO勝ち。7月にスティーブン・フルトン(アメリカ)を倒して手に入れた2本のベルトに加え、タパレスからも2王座を奪取。昨年12月のバンタム級王座に続き、2年連続で4団体王座統一に成功した。

文_本間 暁 写真_山口裕朗
Text by Akira Homma Photos by Hiroaki“Finito”Yamaguchi

パワーファイトを前面に

 膠着しかけたように思える状態を、一瞬にして打ち破ったのは、やはり井上尚弥だった。

 やや外側から巻くようにして放った右が、高く掲げられた左ガードを痛打すると、不動だったタパレスがゆるりと後進し始める。井上はすかさず追撃の右ストレートで額を叩き、不沈艦のように頑なだったタパレスが、ついにロープ際に沈みこんでいった。

10回、井上の破壊的な右により戦いはやや唐突に終わりを迎えた

 ヒザを着き、何とか立ち上がろうともがくタパレスだが、足がどうにもいうことをきかない。セレスティーノ・ルイス・レフェリーが、跪いたまま動けないタパレスにカウントテンを数え上げると、井上自身が拍子抜けしたような表情を浮かべていた。「(タパレスが唐突に倒れたので)びっくりした」のだという。だが、「それまでにダメージが相当溜まっていたんでしょう」と状況を把握したとおり、最終的には“ねじ伏せた”形だ。

「ひょっとしたら、フルトン戦以上の技術戦になるかも」と戦前、井上は語っていたが、パワーファイトの印象が際立った。オーソドックスの井上、サウスポーのタパレス。両者の前足が内か外か、そのポジション取りこそ演じられたものの、基本的には正面に対峙した戦い。互いの小さな動きが交錯する中で、井上の豪打が突出していたからだ。

タパレスが後ろ重心に構えて作る空間にあえて身を置き、強打を狙う

 スタンスを広く取り、後ろ重心で奥行きを演出し、井上の強引な右を誘い込んでそこへ右フック、左ストレートを合わせようと画策したタパレス。それはときに成功し、井上にしてはめずらしい被弾の仕方もし、緊迫感を増長させもした。
 けれども、井上はタパレスの意図を察知した上で、敢えてその空間に身を置いていたように思える。速く大きなステップイン&アウトや、サイドへの移動を封印したのは、タパレスの“挑戦状”を受け取ったからに他ならない。

伝説の“あの試合”に重なった

 軽快なステップは井上の大いなる武器のひとつだが、その引き出しを開けず、パワーでねじ伏せるスタイルを選択した理由は、しかし「対タパレス」ということ以上に「スーパーバンタム級で証明したいこと」があったからではなかろうか。フィジカル&パワー、この両面において、この階級で十分戦える──今宵の井上尚弥には、そういう自信が満ちあふれていた。そしてそれは2014年12月30日のオマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦、一気に2階級上げてWBO世界スーパーフライ級王座を強奪したあの伝説の一戦に重なって見えた。

「間合いやタイミングなど諸々を把握するまでは、左ボディブローを打っていく危険はおかさない」と井上は常々語ってきた。特にこの日のタパレスは、右フックがキレており、またこれを「対ナオヤ・イノウエ」として狙ってもいただけに、序盤3ラウンドは左ボディブローを1発も打っていない。それを解禁したのは4ラウンド。速いコンビネーションに織り交ぜて、あっという間にダメージを与えてしまった。
 速くて強い連打が上下に飛んでくる……。両ヒザをキャンバスに着いてしまったタパレスは、何が起きたか理解できていない様子だったが、これで開き直る踏ん切りがついたのかもしれない。詰めに来る井上に、果敢に強打を打ち返していったが、それすらも効果を上げられず、ガードを高く強く構えて貝になり、時折放つリターンブローに一縷の望みをかけるしかなくなった。

井上がボディ打ちを解禁した4回。最初のダウンシーンがおとずれた

 豪快で荒々しく思える井上のパワーパンチは、堅牢強固なタパレスのガードを破壊しにいっていた。そのガードを弾き飛ばす貫通力もあった。が、井上は敢えてそこを叩いて腕を釘づけにさせておき、高度で巧みなブローを差し込んでもいた。それまでよりわずか数センチ外から右を打ってタパレスのテンプルや耳下を打ち据えたり、外から巻いて打つ軌道でスタートしながらガードの間を滑り込ませる左フックを放ったりといった具合に。さらにゾクッとさせられたのは、ボディを目指して打ち出され、途中で軌道を変えて顔面を襲った左だ。いわば、フックからアッパーに切り替わるようなブローだ。
 意識をはぐらかされた上に、あのスピードで、あのパワーで飛んでくる……。本能が恐怖を感じ取り、ディフェンシブになってしまうのはナオヤ・イノウエの対戦相手の常。タパレスは、それでも本能に抗って戦ったほうだ。執拗にストレート・ボディを狙っていったのも見事な抵抗だった。2団体王者のプライドを見た。

速く強く、しかも意思をもつ井上の豪打の前で、タパレスも勇敢に戦った

モンスターからの“プレゼント”

 井上は中盤以降、ふたたび左ボディブローを封印した。タパレスに右フックを合わされるリスクを回避したことがひとつ。顔面へのパワーパンチで何とかしたいという“こだわり”もあったのかもしれない。そして、「最終的にはボディを打てば仕留められる」という手応えもあったのだろう。だからその前に倒れてしまったタパレスに“拍子抜け”したのかもしれない。

 タパレスは鉄壁のガードだけでなく、頭を小さく動かしてパワーパンチの威力を逃がす技にも長けていた。それが、井上がなかなかクリーンヒットを奪えない要因だった。これもまためずらしく、井上が下半身主導でなく、上体主動で右を強引に打ちこんでいった理由である。それでもバランスを崩すことは皆無で、しっかりとした意図と下半身の強靭さを窺わせた。その“流れ”に乗りかけると、ふっと思いとどまってタパレスの攻撃を誘発し、そこへ左ショートフックや左ジャブをカウンタ―して、自ら悪い流れやリズムを引き戻してもいた。インターバル中の真吾トレーナーのワンポイント・アドバイスや、ラウンド中の弟・拓真の「ショート!」という声、そしてそれらに瞬時に対応できる冷静さこそが、井上尚弥の“進化型”なのだろう。

10ラウンドに決めた右ストレートはこのフォーム!

「イノウエが速すぎて対応できなかった」と、試合後のタパレスは傷だらけの顔で呟いた。それは単純にパンチのスピードだけではない。右足の外をスッと取られる井上の左足のことだったり、両雄にしかわからない、狭い空間内でのほんの微動のフェイントだったり……様々をひと言で表した言葉だろう。

10回戦って、きれいな顔のままの井上がいた

 傍観者が表せば、ナルバエス戦同様に「破壊の美学」を見た、である。が、あまりにもパワーが前面に押し出されていたがゆえ、目を眩まされてしまいそうになるが、“小さな動きの技術戦”も、いつもより狭い領域で目まぐるしく行われていた。
 そこを読み取れるかどうか。これは、“モンスター”からわれわれに贈られたクリスマス・プレゼントなのかもしれない。

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