[Saturday Night Notes 5.18]ウクライナ歓喜の日。サンディエゴではベリンチュクが戴冠!

WBOライト級の新王者となったウクライナ人、デニス・ベリンチュク

 サウジアラビアで世界ヘビー級4冠統一戦オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)対タイソン・フューリー(イギリス)をメインとする巨大興行が開催された5月18日。時間差で始まったアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴのペチャンガアリーナで開催されたトップランク興行では、二つのタイトルマッチを含む全8試合が行われた。

写真:トップランク Photos: Courtesy of Top Rank 

文:宮田有理子 Reported by Yuriko Miyata

<WBO世界ライト級王座決定戦>

 地元ウクライナで待ち続けた男、WBO1位のデニス・ベリンチュクが初めてアメリカのリングに登場。世界4階級制覇に挑むエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)を2-1の判定で破り、WBO世界ライト級チャンピオンの座についた。この日時間差で、サウジアラビアで先に世界ヘビー級の4団体統―に成功したオレクサンデル・ウシクも、画面で同胞の戦いを見守ったようだ。

 デビン・ヘイニー(アメリカ)の階級アップで空位になったライト級のWBO王座。ベリンチュクは、それを争う最も正当な権利を持つ男だった。ロンドン五輪銀メダルから2015年にプロ入り後、地元ウクライナで無敗を守ってきた。アジア最強として世界を目指した荒川仁人(ワタナベ)の最後の対戦者となってから、5年が過ぎている。やはりアメリカがビジネスの中心の階級。世界上位に長く留まるものの母国に留まるウクライナ人は、アメリカでプロデビューした同胞ワシル・ロマチェンコの栄光の影に、すっぽり隠れていた。今回が36歳にしてのアメリカデビューで、世界戦デビューである。だが相手がスーパーバンタム級から上がってきた世界3階級王ナバレッテだから、絶対不利というわけではない。世界戦14度目となるメキシコ人に敬意を払いながら試合前の会見では堂々と「3階級制覇はすごいこと。でもここは私の階級だから」と言い切った。そして、「エキサイティングな試合をお見せする」とも。しかし実際は、エキサイティングな試合にしなかったことが、ベリンチュクが僅差の戦いを制するカギだったのではないか。メキシコの牛飼い、“バケロ”、“バケロ”の大合唱の中、攻防はとてもテクニカルだった。

元五輪銀ベリンチュクはナバレッテに連打許さず

 探り合いから、攻撃力が持ち味のナバレッテが右ロングで先制し、徐々にやりとりの密度は上がったが、ベリンチュクは巧みに動き、ナバレッテに一発以上のヒットを許さない。ダイナミックなコンビネーションが連ならなければ、ナバレッテの強さは半減と言っていいだろう。4回からウクライナ人は左にスイッチしてナバレッテをさらに惑わせ、互いにクリーンヒットの少ない状況に会場はざわついた。6回からウクライナ人がギアを上げ、上下攻撃でアピール。10回の右ストレートを機に左のロングアッパー、さらに右とナバレッテは攻勢をかけて場内を沸かせたが、フルラウンド終了後の採点は、115⁻113、116⁻112、112-116の2-1。ベリンチュクに軍配が上がった。

「これはすごいことだ。素晴らしいボクシング、素晴らしいファイト。ナバレッテ、ありがとう」と歓喜したベリンチュクは19戦19勝(9KO)。ウクライナの同胞ロマチェンコとの統一戦、もしくはトップランク傘下に居並ぶライト級たちとの対戦について聞かれると、「ロマ?たぶんね。 シャクール・スティーブンソン? キーショーン・デービス? たぶんね。わからないな」。まずは念願のベルトの重みを実感したいはずだ。

世界戦では14戦目で初黒星。「進歩のために必要なこと」とナバレッテ

 4回戦時代以来12年ぶりの黒星を喫したナバレッテは41戦38勝(31KO)2敗1分。世界戦14連勝はならなかったが、僅差判定をものにした新王者に自身のテンガロンハットをかぶせて祝福。コメントにも誠実で謙虚な人柄がにじみ出た。「新しい経験だった。今日は難しい試合になると覚悟していたところがある。デニスは素晴らしいファイター。ご覧のとおり彼に苦しめられた。しかし自分の戦いに悔いはない。進歩には必要なことさ。ライト級転向が無理な挑戦だとは感じなかった。ただ改善が必要であることもわかった。だからハッピーさ」。

<WBOウェルター級暫定王座決定戦>

 壮絶な打撃戦のすえ、10位のブライアン・ノーマン(アメリカ)が1位のジョバンニ・サンティリャン(アメリカ)を倒しきった。サンティリャンを押すサンディエガンの大声援の中での10回1分33秒KO勝ち。23歳の新チャンピオンのベストパフォーマンスだったことに、異論はないだろう。

前進するサンティリャンをノーマンのカウンターがとらえる

 ウェルター級はテレンス・クロフォードの世界4冠統一、階級転向により再編が始まったばかり。WBOもこの試合を暫定王座決定戦と認定することになったが、サンティリャンがそれを知ったのは計量当日、「今朝、正式にタイトル戦になったと知らされた」という。途中ブランクもありながら無敗を保ち、昨年10月には敵陣に乗り込んでアレクシス・ロチャ(アメリカ)が持つ1位の座を見事に強奪。32歳で地元世界初挑戦を迎えたサンティリャンは、徹頭徹尾、勇敢だった。かつては堅実な技巧派の印象が強かったサウスポーが、開始から打って出る。接近戦に持ち込んで、左でボディを狙う。しかし、そこでノーマンのカウンターに遭った。左右アッパー、左フック。ボディも。ジョージア州から来た23歳は、サイドステップに乗ってショートパンチをちりばめ、クリンチワークも巧み。サンティリャンを封じにかかる。2022年にトップランク社との契約をつかんだノーマンだが、特筆すべき戦果があったとは言えなかった。期待された直近3月のジャネルソン・ボカチカ(アメリカ)戦は消極策の末バッティングで無判定。正直、まだ世界タイトルマッチまで距離はあるように思われたのだ。しかし今夜、過去一番のノーマンは強かった。打ちに逸るベテランを的確に迎え撃った。サンティリャンの闘志は消えない。8回終盤にアッパーで一瞬腰が落ち、9回には鼻から大量出血。それでも10回、胸板を叩いて発破をかけた地元ヒーローを、ノーマンは右アッパーでノックダウン。それでも続行を望む相手を左アッパーでフロアへ吹っ飛ばし、試合を終わらせた。

地元で迎えた世界初挑戦に闘志が全開のサンティリャンだったが…

 敵地のブーイングにフラストレーションを溜めていたのだろう、新チャンピオンは観衆の前でベルトを叩いて誇示してみせた。「サンティリャンは出てきたけれど、強くは打てないから。パンチをかわして対価を払わせたよ。戦う相手のホームタウンに行って彼らの望みを取り上げるのは悪くない。次の相手が誰であろうと、挑む準備はできているよ」。戦績は26戦26勝20KO。サンティリャンはプロ12年で初黒星。33戦32勝(17KO)1敗。

敵地でベストパフォーマンス。新王者ノーマン

〇…東京五輪スーパーヘビー級銀メダルの左ファイター、リチャード・トーレス(アメリカ)は、クラシックのピアノソナタ『月光』でリングイン。変わらずの猛烈スタイルでファンを沸かせた。長身のブランドン・ムーア(アメリカ)に左ストレート、右フックで襲い掛かり、突進パワーはどんどん加速していく。ムーアも無敗らしく簡単には被弾しないが、5回に勝負は一気に動いた。返しの右を痛打してムーアを大きく後退させたあと、トーレスは左ストレートでついにダウンを奪う。痛烈なダウンから立ち上がったムーアに連打をまとめあげると、レフェリーがストップを逡巡する間にコーナーが白旗を振った。時間は5回1分39秒。トーレスはこれで11戦全KO勝ちに。ムーアは16戦14勝(8KO)1敗1無効試合。

無敗対決を制したヘビー級ホープ、トーレス(右)

〇…メイン近くに差し込まれたこのライト級4回戦は、地元サンディエゴ出身のジョナサン・マンソー(アメリカ)のプロデビュー戦。大声援を浴びるマンソーは恵まれた体躯でスタートからロングジャブを伸ばしてプレスをかけ、左右スイッチするアネル・デュード(アメリカ)を遠ざけた。3回には右ロングアッパー、左フックで相手を痛めつけ、最終回には、出てきたデュードに右打ち下ろしを突き刺して、フルマークの判定勝利を飾った。マンソーはイラク系アメリカ人。サンディエゴには中東系移民の大きなコミュニティがあるそうで、フロア席に大応援団が陣取っていた。デュードは9戦3勝(1KO)6敗。

〇…フェルナンド・バルガスの3人息子のうち目下唯一トップランクと契約している三男エミリアノ・バルガス(アメリカ)がスーパーライト級の体重で6回戦。アンヘル・バレラ(メキシコ)をワンツー、左アッパーと上下への多彩なコンビネーションで攻め上げる。ワンサイドながら決定打を拒んで踏ん張るバレラは、時折カウンターで意地をみせたが、最終回、バルガスが連打をまとめたところでついにレフェリーがストップをかけた。時間は6回1分1秒。バルガスは10戦10勝8KOに。バレラは13戦10勝(7KO)3敗。

〇…スーパーライト級8回戦に登場したアラン・ガルシア(アメリカ)は、ハンサムボクサーのリストに加えるべき美形男子。カンザス州出身で地元を愛するも、アマチュア大会で出会ったグロリア・アルバラード・トレーナーに師事するためロサンゼルスを練習拠点にし、今年、トップランクと契約してコンスタントに起用されている。今回はライト級オーバーのウェイトでプエルトリコ系アメリカ人のウィルフレド・フローレスと8回戦。タフなサウスポーの相手にスタートから積極的にプレスし、右強振で上下を狙ったが、守り重視の相手をおびき出すのに手こずった印象で、中盤にはショートカウンターをもらう場面もあった。スイッチを交えて力いっぱいKOを狙ううちにフルラウンドを消化。採点は三者とも80⁻72とフルマークだった。ガルシアは13戦全勝10KO。フローレスは14戦10勝(5KO)3敗1分。

今年トップランクとの契約をつかんだガルシア

 ちなみに師事するコーチGことグロリア・アルバラードは映画『スパルタンX』のアクションシーンで知られるキックボクサー、ベニー・ユキーデの姪。コーチGの娘ロキシーはプロボクサー。

〇…今回の井上尚弥のスパーリングパートナーを務めた新鋭ジョナサン・ロペス(アメリカ)がフェザー級8回戦に登場。長身に小顔のサウスポーは懐深く構え、左のストレートとアッパーを使い分けてエドガー・オルテガ(メキシコ)を迎え撃つ。2回には左フックが効いたとみるとすかさず同じ左をフォロー。技術の高さをみせる。中盤戦では、果敢に出てくるオルテガの強振を柔軟なボディムーブでかわし、クリーンヒットをこつこつと重ね、そして迎えた8回。左痛打から連打に出る。途中一度、オルテガの右カウンタ―を食って止まりかけたが、再び畳みかけ、レフェリーストップを呼び込んだ。時間は8回2分39秒だった。21歳ロペスは15戦全勝11KO。オルテガは19戦14勝(7KO)3敗2分。

井上尚弥のスパーリングパートナーを務めた21歳ロペス(左)

〇…この日はサウジアラビアの大興行で話題は持ち切り。サンディエゴのリングサイドに置かれたモニターでは、その興行の様子が映し出されている。ちょうどサウジアラビアではメインがスタートしたころ、こちらでは第一試合のウェルター級4回戦がスタート。ロベルト・ガルシア門下の新鋭アート・バレラ(アメリカ)がこれまでになく積極的に開始から圧して、レヴィ・ベニテス(メキシコ)を下がらせた。3回に相手が出てくるとアウトボクシングでいなし、最終回に入ると再び打って出る。これがちょうどウシクvsフューリー戦の山場とほぼ同時! ウシクがフューリーにカウントを聞かせるのと前後して、サンディエゴではバレラが左フックでダウンを奪い、フルマークの判定勝利を飾った。バレラはこれで5戦5勝4KO。ベニテスは5戦3勝(2KO)1敗1分。

コメントを残す

The Boxersをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む