[熱闘Review 8.10]  Fight of the Year有力候補! “全KO勝”オルティスが僅差判定で戴冠も、ボハチュク株が大上昇。

どちらも引かぬ大熱闘。オルティス(右)は初めてフルラウンドを経験

 8月10日は、KO/アップセット・オブザイヤーと、ファイト・オブザイヤーの有力候補が生まれる、ボクシングファンにとってたまらない夜になった。ニューメキシコ州アルバカーキで行われたトップランク興行で、4度目の防衛に臨んだIBF世界フェザー級チャンピオン、アルベルト・ロペス(メキシコ)が元WBO世界スーパーバンタム級王者アンジェロ・レオ(アメリカ)に痛烈な10回KO負け。そして、ネバダ州ラスベガスのマンダレイベイで開催されたゴールデンボーイ(GBP)興行のメインイベントでは、“ザ・オールKO”バージル・オルティス(アメリカ)が、WBC暫定スーパーウェルター級チャンピオン、セルヘイ・ボハチュク(ウクライナ)と大熱闘フルラウンド。オルティスが2度のダウンを乗り越えた上、初めての12回をくぐり抜け、僅差2-0の判定勝ちで新チャンピオンとなった。手元の採点ではドロー。大接戦で2度ダウンを奪いながらボハチュクが判定を落としたことへの疑問の声も少なくない。

Photos courtesy of Chris Estada/GoldenBoy Promotion,  Text_ Yuriko Miyata

WBC暫定スーパーウェルター級タイトルマッチ12回戦

〇バージル・オルティスJr.(アメリカ)挑戦者 WBA1位 22戦22勝(21KO)

●セルヘイ・ボハチュク(ウクライナ)暫定チャンピオン 26戦24勝(23KO)2敗

―判定2-0(114対112、114対112、113対113)――

※オルティスが暫定タイトルを奪取。ボハチュクは初防衛に失敗。

 ボクサーたちはいつも常人の想像を超えていく。強拳自慢の二人は、とても長丁場にはなるまいという大激闘を互いに譲らず、12回を踏破してしまった。これまでプロ21戦すべてKOで終わらせてきたバージル・オルティスは初めての世界挑戦で、2度のダウンを乗り越えてフルラウンド打ち合うスタミナとタフネスを証明。そして、ベルトを失ったものの、クラブファイトからのし上がり、数々の逆境をくぐり抜けてきたセルヘイ・ボハチュクの強靭な肉体と精神への賞賛が相次いだ。

2023年まる一年を棒に振ったKOアーティストはついに迎えた世界初挑戦だった

 オルティスが全KOのまま世界王座に到達するか。当初はそこに関心が集まっていたはず。この数年、病気による3度の試合キャンセルを余儀なくされ、階級を上げて戦線復帰した若者は、まずは健康に計量をクリアして、試合はONとなる。KO率100%と92%の戦いはスタートから期待の通り、スタートからスリル満点だった。暫定王者ボハチュクが、先にジャブで仕掛け、オルティスが右ストレートと左ボディを狙う。両者のパンチが交錯し、ボハチュクの右でオルティスがダウン。主審ハービー・ドックはスリップと裁定したが、フロアにタッチしたオルティスは、攻撃のギアを一段アップする。

 2回も3回も、オルティスがパワー全開で放つ右ストレートと左ボディが優勢を印象づけた。が、ボハチュクは下がらない。独特のリズムで動くウクライナ人は、左ジャブでプレスして、相手の強打に必ずリターン。驚愕の打たれ強さを見せつけると、4回には右アッパーでオルティスの顎を跳ね上げた。そして、5回の開始と同時に試合が一時中断。ネバダ州のビデオレビュー制度を王者陣営が要請し、初回の“スリップ”がダウンに覆った。

戴冠から4ヵ月。ボハチュク自身がオルティスとの対戦を望んだ

 多くが不利を予想しようと、暫定王座に就いたばかりのボハチュク自身が敢えて望んだ戦いである。

 リヤド・シーズンのトゥルキ・アラルシクが贔屓にする選手のひとりであるオルティスは当初、元WBO王者ティム・ジュー(オーストラリア)と8月3日のリヤド・シーズン海外第一弾で対戦する予定だった。が、ジューが3月のセバスチャン・フンドラ(アメリカ)戦で負った額の大きな傷の影響で出場不可に。3月の同興行でブライアン・メンドサ(アメリカ)との激戦を制し、空位のWBC暫定王座を獲得していたボハチュクが、そこで、そのベルトを提げてオルティスの対戦相手に手を挙げたのだ。「過去最高に強い相手であり、自分が何者かを証明できる戦いだから」。

 2017年に異国アメリカでプロになり、ローカルファイトから上がってきた29歳を、この数年の紆余曲折がより貪欲にしたのだろう。コロナ禍中の初黒星から再起し、ビザ更新のための帰国中にロシアの侵攻が開始。母国に足止めされて、2022年秋にやっとのことでロサンゼルスのマニー・ロブレスのジムに帰り着き、ボクサーとしての日常に戻ることができたのだ。

 その当時、ロベルト・ガルシアのジムから拠点を移していたオルティスとは、ジムメイトだった。だが、いずれ戦う運命を察してか、スパーリングは、なし。彼らが手合わせしたのは、前年の2021年のみである。オルティスのエギディアス・カバリャウスカス(リトアニア)戦前の練習相手に請われて、ボハチュクが2週間、ガルシアジムに出向いて行ったものだ。オルティスはゴールデンボーイの興行宣伝映像で語っている。「50ラウンド以上やったから、彼のボクシングはよく知っている。他の人なら手に負えないくらい、どんどん手が出てくる選手だ」。

 試合キャンセルを重ねた末、2023年のうちにガルシアのジムへ拠点を戻したオルティスと、ロブレスを心底慕うボハチュクの間に、複雑な感情があったのかもしれない。戦いの前からバチバチだった火花は、リング上でスパーク。互いに一歩たりとも引く気配はなかった。

オルティスは強烈なパンチで襲い掛かるが…

 第5ラウンドが再開。オルティスはボハチュクの右アッパーに左ボディを合わせて、右強打を封じにかかる。6回、接近戦で打ち勝とうとするオルティスに、ボハチュクはそれでも右アッパーをねじ込んでいった。長い腕を折りたたんで使うブロッキングは巧みで、その間から実によく見ている。接近戦の攻防で上回ったボハチュクは、7回にはロングレンジでもストレートで打ち勝ち、そして8回、右を狙うオルティスに見事な左ショートフックを叩きつけてノックダウン。足元を指してオルティスはスリップを主張したが、今回は間違えようのないダウンだった。

上背のあるボハチュクはジャブを絶やさず、得意の近距離戦でも手を止めない

 カウントを聞いた全KOパンチャーはそこから、形相を変えて襲い掛かった。凄まじい勢いに、観客も大興奮だ。9回、オルティスがボハチュクをロープに追う。左まぶたから血を出しながら、ショートの猛攻。10回も力いっぱいの左右を叩きつけて前に出る。最終ラウンド終了まで、オルティスの体ごと乗せるようなパンチは凄みがあった。最終回にボハチュクがバランスを崩しかけた時には猛然と襲い掛かったが、ウクライナ人は乱れない。ブロックからリターンにつなげ、打ち終わりを右ストレートで狙い撃ち、しっかり対抗するうちに、フルラウンド終了のゴングを迎えた。

打撃戦は最後まで続き、無敗オルティスの顔にも激闘の痕跡が残った

 新王者オルティスは、激闘の痕が色濃い顔を上げて、思いの丈を語った。

「5歳の時から、この日のために戦ってきたんだ。学校からジムへ直行。宿題をやって、またジムへ。プロになってからは、ボクシング漬けだった。そんな毎日がやっと報われた。一つ目のダウンは、ダウンと思わなかった。彼の靴に足が当たったと思った。2度目のは、ダウンだったね。でも勝つために十分なことをしたと思う。そして、僕がもう終わったとか、この階級では無理だとか、長いラウンドはもたないとか疑ってきた人たちに、それは間違いだったと証明できた。そういう声も僕をあおってくれた。僕は世界一のボクサーだ」

 判定に首を振ったボハチュクは、「今日この戦いを見た本当のファンは、ここで何が起きたかがわかっているでしょう。私はまったく疲れていない。私は彼を2度もダウンさせたんだ。私は母国ウクライナを支えたい一心だ。すべてのファン、すべての支えてくれる人たちに感謝したい」と語った。

 その後、戦った二人は大事をとって病院へ向かい、記者室に場所を移して行われた会見には姿を見せなかった。オルティス陣営を代表したロベルト・ガルシア・トレーナーも、ボハチュク陣営のトム・ロフラー・プロモーターも、再戦の可能性を示唆。リングサイドで観戦したアラルシク氏から丁重な労いを受けたボハチュクには、新たなオファーもあるという。

 一週前のテレンス・クロフォード(アメリカ)対イスライル・マドリモフ(ウズベキスタン)に続き、ボハチュク対オルティスも競った戦いに。WBC正規王者であるフンドラ、対戦の噂がある元3冠王者エロール・スペンスJr.(アメリカ)、前WBO王者ジューも、次戦アナウンスは近いとみられる。154ポンド階級のトップは混沌とする分いろんな可能性を孕み、目が離せなくなった。

☆IBF女子世界フライ級タイトルマッチ2分10回戦

〇ガブリエラ・フンドラ(アメリカ)チャンピオン 14戦14勝(6KO)

●ダニエラ・アセンホ(チリ)挑戦者 23戦16勝(2KO)4敗3分

――判定3-0(100対90×3)――

※フンドラが2度目の防衛に成功。

身長175センチのフンドラ妹(左)。彼女に勝てるのはいったい誰なのか…

“タワーリングインフェルノ”の実妹ガブリエラは、無敵状態だ。昨秋に大ベテランの女王アレリー・ムシーニョ(メキシコ)をめった打ちにして5回でストップ。IBFフライ級王座を奪取すると、今年1月は元トップアマ、クリスティナ・クルス(アメリカ)に背を向けさせて10回TKO勝ちし、今回は、終始勇敢な元IBOチャンピオンのアセンホを、フルマークで退けた。

 スタートから、175センチのサウスポーは右ジャブで前かがりにプレスをかけた。今回がメジャー世界王座初挑戦のアセンホは恐れず懐に潜り込んで左フックを狙うが、フンドラは容赦なく打ち下ろしの左ストレートで迎え撃った。やがて、アリーナ席で客同士が大喧嘩を始め、とんでもない“KO劇”が“場外”で繰り広げられるうち、リング内ではフンドラが着々と左のヒットを挙げていく。懸命に右を打ち上げて、反撃しようとするアセンホに、フンドラは左アッパーを痛打。脇腹に左アッパーをめりこませる。強烈なパンチに耐え切ったアセンホも、採点に納得の様子だった。

「アセンホはいいボクサー。ハードショットをいくつか当てても、10ラウンド、私と戦い続けたんだから。次は統一戦がしたい。世界最年少の統一チャンピオンになりたい」と、22歳のフンドラは言い、今年4月にマーレン・エスパルサ(アメリカ、体重超過で王座剥奪)のWBC・WBO王座を獲ったガブリエラ・アラニス(アルゼンチン)との対戦を希望した。ぜひとも見たいカードだ。

☆WBC暫定女子スーパーウェルター級王座決定戦2分10回戦

〇 セシリア・ブレークス(ノルウェー)41戦38勝(9KO)2敗1分 元女子世界4団体統一ウェルター級チャンピオン

● マリセラ・コルネホ(アメリカ)26戦19勝(7KO)7敗 

――判定3-0(96対93×3)――

※ブレークスが暫定王座獲得。

急造カードは、ベテラン女子同士の好ファイトに

 女子ボクシング初の4団体統一チャンピオンの“レジェンド”セシリア・ブレークスが、4年ぶりに世界王座に返り咲いた。当初はWBC・WBOスーパーウェルター級チャンピオンのエマ・コージン(スロベニア)に挑戦するはずだったが、コージンがビザ問題で渡米できず。コルネホを代役に、WBCが設けた暫定王座をかけたタイトルマッチとなった。

 急なオファーながら、7月20日にコスタリカで8回戦をほぼフルマークで制したばかりのコルネホが軽快に動いた。イスマエル・サラス門下の長身37歳は左ジャブを生かし、右クロスにつないでリズムをつかむ。しかし、返り咲きに執念を燃やすブレークスが4回終盤、右ストレートから左ショートフックを返してダウンを奪い、流れを変える。下がるコルネホの左をかいくぐって右をヒット。左フックからさらに右とつないでいく。7回にコルネホの右オーバーハンドを食った後はより慎重に距離をとりながらプレスをかけ、優勢をアピール。ジャッジ三者の支持を得た。

4年ぶりにベルトを手にしブレークスは感涙にむせんだ

 勝利のコールを聞いたとたん、ブレークスは涙を流した。2009年から10年間、世界王座に君臨した女王は、2020年8月にジェシカ・マキャスキル(アメリカ)に敗れて以来、再びの戴冠を目指してきた。再戦で返り討ちに遭ったあと、昨年秋には敵地イギリスでテリ・ハーパーと空位のWBOスーパーウェルター級王座を争うも、ドローに終わっていた。「ベルトを取り戻すことができて素晴らしい気持ち。経験豊富なマリセラのパワーを感じても、私もパワフルと言い聞かせた。これから朝までこのベルトといっしょにパーティーよ。それからノルウェーに帰ってお祝い。ノルウェーの人々にとっても大きな勝利」、プロキャリア17年、42歳になった女王は喜びに浸った。プロモーターのトム・ロフラーとトレーナーのジョナサン・バンクスとともに、今後のプランをたてるという。

〇…今日のセミファイナルに抜擢されたWBCスーパーウェルター級2位の チャールズ・コンウェル(アメリカ)は、キアリー・グレイ(アメリカ)と10回戦。2回にショートレンジに持ち込み、左アッパーを腹に決めてグレイを悶絶させて、2回2分32秒KO勝ちを飾った。元オリンピアンの世界ランカーは、今年2月にGBPと長期契約し、今回が2戦目で2連続KO勝ち。世界挑戦のチャンスを待ちわびる26歳はこの日のメインをリングサイドで観戦した後、「どちらにも自分が勝つ自信がある」と不敵に笑った。戦績は20戦20勝(15KO)。グレイは25戦18勝(13KO)7敗。

GBPデビュー2戦2勝2KO。コンウェルが猛アピールしている

〇…WBAスーパーライト級1位のケネス・シムスJr(アメリカ)が、GBP興行デビュー。今回は元IBF世界スーパーバンタム級王者のジョナタン・ロメロ(コロンビア)と、ウェルター級超の148ポンドで戦うことに。実戦は昨年5月以来で「錆びつきは3回くらいでとれた」というトップコンテンダーだが、初回からロメロをロープ伝いに追った。左右スイッチしながら、左ボディブローに右クロス。上下を打ち分けて、3回にはもうロメロが戦意喪失気味だ。4回、右カウンターを次々とヒットし、5回、コーナーに詰まったコロンビア人に右ストレートを決めて大きく顎を跳ね上げる。そのラウンド終了後、ロメロのコーナーが棄権を申し出て、試合は終了した。ホセ・カルロス・ラミレス、アーノルド・バルボサJr.とスーパーライト級のタレントを擁するプロモーションに迎えられ、「誰とでもやる」と意欲を示すシムスは、24戦21勝(8KO)2敗1分。ロメロは4連敗で40戦35勝(19KO)5敗。

混戦のスーパーライト級でチャンスを待つシムスJr.

〇…注目すべきプロスペクト、ジョエル・イリアルテ(アメリカ)がDAZN放送第一試合ウェルター級6回戦に登場。ミゲール・オルティス(アメリカ)を初回2分15秒で詰め切った。長身のイリアルテはスタートからプレスをかけて、目にもとまらぬ左ダブルをボディ、顔面へと返してみせる。ロープ伝いにオルティスを追い、左フックで痛めつけた後に左右を畳みかけ、レフェリーにストップを決断させた。これで4戦4勝4KO。自信に満ち溢れた、とても21歳には見えない21歳は、要注目である。オルティスは5戦3勝(1KO)2敗。

大型新人イリアルテは、要注目

〇…ユーチューブストリーミングのオープニングは、ゴールデンボーイが契約した元国内トップアマ、ジョーダン・フエンテス(アメリカ)のデビュー戦。当初はスーパーバンタム級(122ポンド)で行われる予定だった。ところが相手のジェームス・マルダー(アメリカ、3戦3敗)が10ポンドオーバーで現地入り。5ポンド落としたところで協議のすえスーパーフェザー級戦として承認されたという。そんなトラブルに見舞われたものの、フエンテスは誠実に戦った。サウスポースタンスに立ち、打って離れる、切れのいい動きとハンドスピードを披露しながら圧力をかける。守りに徹する“大きすぎる”マルダーを上下攻撃で崩そうと、最終回終了のゴングまで努めた。採点は一者が39対37としたものの残る二者は40対36の3-0。カリフォルニア州中部フレズノ出身のフエンテスは、アマチュアで7度の全米制覇を果たし、昨年末のパリ五輪国内トライアルで優勝。最終戦では、現在トップランクと契約するスティーブン・ナバロを破っている。その後の選考過程でパリ行きはならず、プロに目標を移した。マネージャーは、同郷ホセ・カルロス・ラミレスやバージル・オルティスJr.と同じく、リック・ミリジャン。18歳の次戦が楽しみだ。

まとまった戦力をもつ元トップアマ、フエンテスは18歳

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