日本スーパーウェルター級王座統一戦10回戦(8月8日 東京・後楽園ホール)
チャンピオン 出田裕一(三迫)vs 暫定チャンピオン 中島 玲(石田)
食らいついたら離さない「古豪」出田か
スピード&技術備える若き「俊英」中島か
日本スーパーウェルター級王座統一戦、正規チャンピオンの出田裕一(三迫)と暫定チャンピオン、中島玲(石田)の10回戦が間近に迫る。出田は昨年11月の日本王座獲得後から眼疾でブランクをつくり、その間に設置された暫定王座を獲った中島との統一戦が、初防衛戦でもある。あらゆる面で対照的な二人による“新旧対決”は、いかに展開しいかに決着するのか、予想してみよう。
文_本間 暁 写真_山口裕朗
Text by Akira Homma Photos by Hiroaki ”Photo Finito”Yamaguchi
いでた・ゆういち(三迫ジム所属) 1984年10月7日、東京都国分寺市出身。茨城・松丘高校卒業、東京農業大学中退。2005年4月、ヨネクラジムからプロデビュー。2022年11月、33戦目で日本タイトル初挑戦、川崎真琴(RK蒲田)を9回TKOに下し、日本スーパーウェルター級王座奪取に成功した。2018年から三迫ジム。33戦16勝(9KO)16敗1分。
なかじま・れい (石田ジム所属) 1998年6月27日、大阪府池田市出身。大阪・興國高校卒業、東京農業大学を中退し、2019年7月にプロデビュー。2021年4月、4戦目で当時の日本スーパーウェルター級王者・松永宏信(横浜光)に挑戦し判定負け。7戦目となる2023年4月、同級暫定王座決定戦で、加藤寿(熊谷コサカ)を9回TKOに下してタイトルを獲得した。7戦6勝(1KO)1敗。
戦い続けた者のみが辿り着く境地

茨城・松丘高校から東京農業大学と、アマチュアボクシングの名門を渡り歩いたとは到底思えない、武骨なスタイルを持つのが出田裕一だ。
アマ経験者といえば、綺麗なワンツーストレート、軽快なフットワーク、卓越した防御技術を持つイメージが強いが、出田の場合はいずれもが対極にある。
半身姿勢でなく、肩をいからせた正面を向いた形から、のしのしと歩み寄る。そして、相手の攻撃を貰ってもかまわないといった風情で、ゴツゴツとしたフックを打ち込んでいく。当然、被弾は多く、身内にとっては冷や冷やすることこの上ないだろうが、そうしていつの間にやらズルズルと、相手を自分のペースに引きずり込んでいく。まるでアリ地獄のようなボクシングである。
12連敗という、きわめて稀な経験をしているが、その渦中では当然、“焦り”があったはずだ。打ち合いは出田のペースのはずなのに、「パンチを貰ってしまった。ポイントを取られてしまった」という思い込みが先走っているように思えた。相手が充分嫌がっているはずなのに、意識が過剰に働いて、自らリズムを乱してしまうといった具合に。体と心の悪循環、その繰り返しだったように思う。
連敗がストップし、負の流れを止めて逆流させた背景には、発想の転換が存在するのではないか。「打たれても、芯に喰わない。自分のダメージを最小限に抑え、じわじわと相手にダメージを与えよう」と。その場その場の打った打たれたに固執せず、トータル8ラウンド、10ラウンドと試合の全景を俯瞰して見ることができるようになった。相手の肉体・精神両面の状態を観察し、自分のギアの上げ下げをコントロールできるようになった。戦い続けた者しか辿り着くことのできない境地に思える。
重量級のイメージを変える俊敏さ
出田の目の負傷によって生まれた(設置された)暫定王座決定戦で、強打のサウスポー加藤寿(熊谷コサカ)を自身初めてのKOで破った中島もまた、興國高から東農大と名門を歩んだアマ経験者だ。彼の場合は、誰もがその事実をすんなり納得できるボクシングスタイルで、この階級としては小柄(167cm)ながら、スピード、柔軟性を生かして、まるでゴムまりのようにリングを動き回る。パンチの打ち方、タイミングの取り方も絶妙で、これまでKO勝利がなかったことが不思議なほど。日本の重量級のイメージを変える俊敏さは、プロ入り当初から“通”のファンや関係者の目を惹いてきた。体の柔らかさを存分に発揮する防御テクニックも秀でたものがある。スピードとテクニック、いずれも出田を上回っているといってよいだろう。

どの試合でも大きなダメージを受けてきた出田は、目の負傷によるブランクも気になるところ。キャリアは浅いものの、パフォーマンス的には、若くて生き生きとし、勢いもある中島有利と見る向きが多いだろう。
中島にとってベストなスタートはこうだ。じわじわとにじりよる出田を、持ち前の軽快な動きでさばきつつ回り込み、出田を軸として、全方向から手際よく、タイムリーなパンチを上下にヒットさせていく。
スピードとタイミングを活かしたカウンターを早々にヒットさせ、出田に大きなダメージを与えたり、ダウンを奪ったりするようなシーンが生まれるかもしれない。そうなった場合、中島はそこで一気に決めにいくのか、長いラウンドを考えて自重するのか。そこもひとつの分水嶺となる。
序盤を耐えた出田の怖さ
序盤、中島にリードされるのは覚悟の上、出田はそこを耐えしのぎ、中盤以降のためにコツコツ、淡々と自らができることを続けられるか。打っても打っても音を上げない出田に、中島が辟易して心を少しずつ削り取られていくと、出田のほうへ流れはじわりじわりと寄っていく。精神的に圧迫を受けてからのアウトボクシングは、普段以上のスタミナを消費する。出田の耐久スタイルは、相手にそういう恐怖を抱かせるものだ。
思いのほかパンチを当てることができる。それでもなかなかダメージを与えられない。ならば、もっと強く多く打ちこんでいこう──。出田と戦う者はたいがい、こういう心理状態になる。そうして自分のペースを乱してしまう。出田はここに食らいつく。沼に少しでも足を踏み入れた者を引きずり込む。パンチを喰っていながらも、その間隙に左右ボディフックを差し込んでいく。打ち合いに躍起になっていた相手が気づいたときにはもう遅い。いつの間にか脚が動かなくなっていた……という状態に陥りかねない。これぞ“出田マジック”である。
勝負は終盤。中盤までの両者の戦いがポイント
中島サイドのベーシックなプランはこうだろう。序盤にポイントを集め、できればダメージを与え、中盤に動きを自重しつつイーブンペースを保ち、終盤に突き放す。
出田側は、序盤の失点を気にせず、中盤にペースを手繰り寄せ、中島の疲労が濃くなった終盤に抜き去る。
予想はあくまでも予想。相手が考えている意表を突くこともボクシングの醍醐味で、極論を言えば、出田が見たこともないアウトボクシングをしても、中島が猛烈なブルファイターに変身していても、驚きこそすれ、戦術の誤りとは思わない。
出田には両目上に古傷があり、それが切れやすくなっている。セコンドの止血技術も非常に重要度を占めている。中島はそこを戦略的に狙ってくるだろう。勝つためには必要なことだ。
38歳のいぶし銀が光るか。25歳の輝きが増すか。
新旧対決は、いつの時代、どの試合も観る者の胸を高鳴らせる。