PART1「スーパーバンタム級で戦える。その確信ができた」

WBC&WBOチャンピオン井上尚弥(30歳=大橋)とWBAスーパー&IBF王者マーロン・タパレス(31歳=フィリピン)による世界スーパーバンタム級4団体統一戦(12月26日・東京・有明アリーナ)まで、あと1週間──。世界中のボクシングファン&関係者のみならず、スポーツファンも注目する1戦に向け、調整を続ける“モンスター”を直撃。ジムワーク前後の貴重な時間を本誌のために割き、ときに鋭く、ときに屈託なく、ナオヤ・イノウエは自然体で丁寧に応じてくれた。
インタビュー&構成_本間 暁 写真_山口裕朗
Interview by Akira Homma Photos by Hiroaki“Finito”Yamaguchi

今回はフィジカル面が試される
──もう、ちょうど試合までひと月を切ったところ(※取材は11月27日)です。敢えて訊かなくても雰囲気を見ていればどんな状態か分かります。
井上 そうですね。順調です。
──前回や、かつてのこの時期の雰囲気とは違う印象を受けます。
井上 それはあったかもしれないですね。やっぱりこの前は初めてのスーパーバンタム級の試合でしたし。タパレスを軽視しているわけではないですが、感じるものというか、自分が出しているオーラは違うと思います。
──前戦はスティーブン・フルトン(アメリカ=WBC&WBO前チャンピオン)のことを考えるのに加え、スーパーバンタムで、はたして自分はどうか。そこを考えなければいけなかった。
井上 スーパーバンタム級を主戦場としてやってきた選手を相手に、今までどおりのパフォーマンスを出せるのかどうかとか、いろんな未知の部分が大きすぎたというか。でも今回は、試合に挑むまでの過程、コンディションの作り方がなんとなく分かってきたというか。まだ1戦しかしてませんけど。でも、こうすればこの階級の体を作れるというのがある程度分かったので。
──スーパーバンタムでやれるという自信、気持ちの部分でのゆとりというか……
井上 そうですね。そこの確信はできました。それに、タパレスは元々がバンタム級で、自分同様に階級を上げてきている選手だから、自分がここに上がってきたときほどの未知的な部分がないというか。
──フルトンはやっぱり体が大きかったじゃないですか、前日までは。でも、リングに上がったときに、前の日までの印象にあった“デカさ”を感じませんでした。それがまたボクシングの不思議なところです。
井上 リングに上がったときに放つオーラってあると思うんですよ。それに、最初はデカく感じても、試合を優位に進めていくとサイズ感が逆になっていくことがある。それってマニー・パッキャオ(フィリピン=元世界6階級制覇チャンピオン)に感じることがあったじゃないですか。
──なるほどなるほど、そうですね。
井上 でも、フィジカル面で試されるのは今回だと思うんですよ。フルトン戦でそこが課題というか注目ポイントだと思っていたら、フルトンは元々がフィジカルを活かして戦う選手ではない。だから、フタを開けてみたら、自分の中ではあまりフィジカルを証明できなかった。
──距離を操った駆け引きの戦いでしたからね。
井上 そうですね。もっとクリンチワークとかの激しい試合になるかと予想してたんですけど。
──例によって、クリンチすらさせませんでしたからね。
井上 だから怖さで言えば、タパレスのほうが何枚も上だと思います。

向かい合って感じることがすべて
──特に序盤ですよね。
井上 そうですね。
──タパレスは、フルトンのようにリングを広く大きく使う選手ではない。目の前のここの空間で戦う選手です。そういう選手は、井上選手にとって、やりやすい、やりづらい、どちらでしょう。
井上 意外と得意とはしていないかもしれません。そういうタイプは。
──え、そうなんですか。
井上 ……な気がするんです(笑)。
──そんなこと、1ミリも思ったことはないんですが(笑)。
井上 足は止まってるけど、ボディワークだけでかわす選手って意外と……。
──タパレスは、小さな動きで処理していく選手じゃないですか。素人的にはそういう選手のほうが対処しやすいと思ってしまいます。
井上 逆にそこが今回の“落とし穴”というか。自分が良くないパターンにハマっていくなら、そこの距離感に甘んじてしまうことです。距離が近いからといって強打を打っていったら……そこに落とし穴が待っているパターンがあるのかな、と。今回はそこ、かな。
──タパレスは、近い空間での戦いに引きずり込もうという選手だと思うんです。
井上 はい。
──その空間で相手にパンチを出させて、強打を合わせていこうというのが基本スタイル。
井上 ……。まだ、タパレス像というのをしっかりと描いているわけじゃないんです。
──そうなんですね。見た試合はどれですか。
井上 ほとんどダイジェストです。そんな見ないですよ、いつも。結局フルトンの試合もフルでは1度も見ていないです。
──そうなんですか。でも、1ラウンドで把握しちゃってますからね。
井上 そこで感じるものがすべてですから。あとは相手の得意なパンチとか、貰っちゃいけない軌道のパンチとか立ち位置、そこだけ把握しておけば。1ラウンドだけ集中してしのげば。あとはそこから情報を集めていく作業になりますから。映像はもう、ほとんど見ないと思います。
──自分が感じるものを信じる。
井上 タパレスの得意なパンチ、パターンはなんとなくは分かってますから。何かっていったら、自分が想像している距離感、そことのギャップには気をつけたいですね。
──タパレスは、パンチを貰っているように見えても、実際は小さな動きで微妙にそれを殺す技術がありますからね。
井上 そうですね。意外と小さなテクニックが多いんですよね。
──そこが以前とのイメージの違いですね。
井上 もっとラフで隙のある選手かなっていうイメージがあったんですが。でも、元々もそんなに見たことはないんですが(笑)。
──そっかそっか(笑)。井上選手的に、タパレスの危険度を10段階で表すとどのくらいでしょうか。
井上 今は10で見てますよ。
──それは、どんな相手に対しても?
井上 もちろん10で考えます。そこを7とか8で考える必要がないので。自分の中でMAXで考えて警戒します。でもひとつ言えるのは、フルトン戦より凄い緊張感のある試合になることです。1、2ラウンドは特に。フルトン戦は自分、1ラウンドをゆったり入ったと思うんですけど、入り方はたぶん違ってきます。
──なるほど。フルトン戦では試合を通して、井上選手の体自体のアクションが大きかった。でも今度は、井上選手自身の小さな動きも、近い距離の戦いで活きてくるかと。
井上 と思うんですよね。あとはタパレスの出方次第じゃないですか。そこにどう当てはめていくか。
<20日公開のPART2に続く>
モンスターの極上な中身を引き出すにはインタビュアーの極上な質が必要だと、何度読んでも感じる記事です。
井上チャンプの勘の良さ、感性にとても救われました。
インタビューのときは、ボクサー諸氏にいつも救われます。
彼らは会話においても本当に繊細で反射神経に優れていますので。