日本バンタム級タイトルマッチ10回戦(12月26日 東京・有明アリーナ)
チャンピオン 堤 聖也(角海老宝石)vs 3位 穴口一輝(真正)
力まず慎重に振る舞いたい王者・堤
穴口は“挑戦者”を意識せず普段着の試合を

世界中の熱視線が集まる井上尚弥(大橋)vs.マーロン・タパレス(フィリピン)戦のセミファイナルからも目が離せない。『井上尚弥バンタム級4団体統一記念 バンタム級モンスタートーナメント決勝』を兼ねた同級日本タイトルマッチが行われるのだ。WBA3位、IBF4位、WBC10位、WBO15位と4団体のランクも持つ王者・堤はこれが4度目の防衛戦。この試合がプロ7戦目の穴口は王座初挑戦。大観衆の興奮を誘うのは、はたしていずれか──
文_本間 暁 写真_山口裕朗
Text by Akira Homma Photos by Hiroaki ”Photo Finito”Yamaguchi
チャンピオン
堤 聖也(角海老宝石)
SEIYA TSUTSUMI
生年月日 1995年12月24日、28歳(試合時)
出身地 熊本県熊本市
身長 166cm
リーチ 164cm
スタイル 左右ボクサーファイター
出身校 九州学院高校→平成国際大学
アマチュア戦績 101戦84勝(40KO・RSC)17敗
アマチュア実績 2014年国体フライ級(成年)準優勝
プロデビュー 2018年3月27日
プロ戦績 11戦9勝(7KO)2分
挑戦者・同級3位
穴口一輝(真正)
KAZUKI ANAGUCHI
生年月日 2000年5月12日、23歳
出身地 大阪府岸和田市
身長 166cm
リーチ 170cm
スタイル 左ボクサー
出身校 芦屋学園高校→芦屋大学
アマチュア戦績 68勝8敗
アマチュア実績 2017年高校選抜フライ級優勝
2018年国体(少年)バンタム級優勝
プロデビュー 2021年7月24日
プロ戦績 6戦6勝(2KO)
技術に裏打ちされた勇気と決断力備えた王者・堤
中嶋一輝(大橋)戦、比嘉大吾(志成)戦と、内容的には勝ちといってもおかしくない試合を引き分けた当時の堤は、それでも瞬時の判断に迷っていた部分があったように思う。が、澤田京介(JB SPORTS)との王座決定戦を経ての大嶋剣心(当時・帝拳、現・一力)戦で、鼻の通りが良くなって、嗅覚がクリアになった印象がある。サウスポーの南出仁(セレス)の、同じサウスポーの右フックに対する反応の甘さを見抜き、それをキーパンチにするなど、戦略面でも秀でたものを披露した。石原雄太トレーナーとの信頼関係もおそらく絶大なのだろう。
そして前戦。シード権を有した堤のトーナメント初戦(準決勝)は、強打のサウスポー増田陸(帝拳)を迎えての3度目の防衛戦。これは「国内年間最高試合候補」の呼び声高い大激闘となった。
増田の切れ味鋭い左アッパーカットを喰って右目寄りの眉間をカットした。大量出血が凄惨なイメージを与えたものの、しかしここでも戦略・戦術面で抜きん出たものを発揮。ものの見事に判定勝利へと漕ぎつけた。パワーパンチに加え、圧力も分厚い増田に対し、「距離を取ってリスクを軽減する」のでなく「距離を縮め危険地帯で戦う」ことを選択。序盤でさっと切り替えた決断の瞬間は鳥肌ものだった。結果論かもしれないが、堤が距離を取り続ける戦い方をしていたら、増田の勢いは加速していただろう。いったんでき上がった“流れ”から抜け出すのは至難の業。その見極めは実に鮮やかだった。
ただし、その選択を「勇気」のひと言で片づけてしまうのはあまりにも短絡的だ。気持ちだけ(とはいえ勇気ももちろん絶対条件だが)では、あの修羅場は到底くぐり抜けられない。「増田のパンチが、伸びて最大の威力を発揮する距離を潰す」という明確な目的。しかし、その間合いに入っていく際のカウンターをよける技術。至近距離で増田得意のアッパーをかわすテクニック……これらに対する絶大な自信がなければ「勇気」は決して生まれない。
しかし“大器”増田もさるものだった。堤の一瞬の隙を突いて左アッパーを決め、甚大な被害を与えたのだから。それでも堤は決して退くことをせずに危険水域を果敢に泳ぎ切った。恐怖心を呼び起こす増田のシャープなブローをかわし続け、なおかつカウンターを合わせにいって──。
あの流血状態でも退かず、リスクの高いポジションをキープし続ける。退けば、心も退いてしまう。増田がするりと入り込んでくる余地を与えてしまう……。すべてを鮮明に熟知した上での覚悟──。すっかり“勝負強さ”も手に入れた、堤の堂々たる防衛だった。
“揺さぶり”に長けたテクニシャン穴口
一方の穴口は、トーナメント初戦でフィジカルの強い内構拳斗(横浜光)を堂々迎え打ち、内構が一瞬でも躊躇すれば先手を仕掛けるなど、徹底して“雰囲気”を読み、瞬間瞬間で出どころ、引っ込みどころを変えていく駆け引きの上手さを発揮。続く準決勝では、好ヒッター梅津奨利(三谷大和スポーツ)にパワーパンチでの勝負を捨てさせて、技術戦に巻き込んだ。
いずれの試合も、煽られても飄々と受け流し、相手が一瞬でも迷いを見せれば攻撃を強め、印象点でガッチリと上回る。“打たせず打つ”高い技術もさることながら、プロキャリアの浅い選手とは思えない、メンタル・コントロールの巧みさが最大の武器とみる。どんな場面でも自身の心を安定させて、かつ相手の心理を揺さぶり続けることができる。相手からすれば崩しづらく、崩されやすい選手。いわゆる“戦いたくない”タイプの選手だ。
アマ実績では“関西学生リーグの雄”穴口が上回っていたが、プロキャリアでは堤が優る。直近数試合の出来や勢いからしても、「堤優位」と見る向きが多いようだが、この試合はズバリ、「互角」と見る。
世界ランクが軒並み上位の堤は、当然すでに“この先”を意識していることだろう。しかし、その心構えが過度の力みを生み出しはしないか。大観衆が取り囲む大舞台で、「ネクスト・モンスター」をアピールしたい。その姿勢は“戦う者”として至極真っ当だが、それが妙な方向に捻じ曲がると、空回りが生じてしまう可能性がある。そして、その“空転”を誘い出すのに長けているのが、穴口なのだ。
両者の“重石”を考慮すれば勝負は互角
試合前時点で、堤は「明確に勝ちたい」と思うだろうし、穴口は「1ポイントでも上回ればよい」という狙いだろう。つまりスタート時点で背負っている錘(おもり)の重さが違う。これは決して穴口のこれまでを軽んじているわけでなく、あくまでも現時点での両者の立場の違いが生み出す“圧”のことだ。
堤が穴口の怖さをくっきりと認識した上でこの試合にしっかりと集中し、逆に「1ポイント差でも勝ちに徹する」思いがあれば、むしろのびやかなボクシングを披露できるだろう。ここ数戦、大胆さが功を奏してきたが、今回ばかりはかつての「慎重さ」が求められるかもしれない。「引き分けでも俺の勝ち」くらいの“ゆとり”があると、堤の引き出しはたくさん開かれるように思う。
「挑戦者」の穴口は、チャレンジャーだからといって普段のボクシングを自ら崩す必要はない。堤の焦りを誘発し空転させる。そんな嫌らしいボクシングを繰り広げるのが理想形だ。「勝って総取り」の思いを募らせて、力みかえったボクシングをすれば、それもまた堤の術中にハマることになる。
ボクシングIQの高い者同士の一戦は、パフォーマンスの高さはもちろんのこと、第三者には見えづらい、両者の間に築かれる“空間”のやり取りに注視したい。そしてもうひとつ、「セコンドの戦い」にも耳を傾けたい。“声援”で相手に揺さぶりをかけることに長けた両ジムがゆえ。
懸念材料は堤が前戦で負った眉間の傷だ。当然、穴口サイドはこれを狙ってくるだろう。早いラウンドで出血する可能性もある。そうなると、これまた名カットマンとして名高い鈴木眞吾会長の手腕が試される。
スイッチヒッターの堤が、右構え左構え、いずれでスタートするかにも注目したい。穴口サイドにとって、これは大いに気になるところだろう。構えを変えることなく試合を進めるのか。穴口を戸惑わせるために頻繁に変えるのか。それとも、ペースをつかめずに変えざるをえないのか。そういった堤の心を読むのも、試合の楽しみ方のひとつである。