インディアン保護区カジノはソールドアウト満席

写真:リナ・ベイカー/360プロモーション 取材:宮田有理子
Photos courtesy of Lina Baker/360 Promotions Text:Yuriko Miyata
トム・ロフラー率いる360(スリーシックスティ)プロモーションの定期興行“Hollywood Fight Nights”は、各地で着々とファンを増やしている。6月7日の金曜日、カリフォルニア州中部サンタ・イネスにあるチュマシュ・カジノで行われた興行は、前売りでソールドアウトだったという。太平洋沿岸サンタバーバラから山道を北上するとあるチュマシュ族保護区のこのカジノは、360プロ興行を昨夏から年4回の契約で招致。かつては興行主ゲイリー・ショーがShowtime興行を数々打った会場で、ボクシングファンが集まる土壌はあるのだろう。が、おそらく2000人弱、フロアからスタンド席までびっしり埋まった会場と密度の濃い歓声は、ボクサーたちの熱闘はもちろん、敏腕かつ清廉なロフラーとその仲間たちの地道な努力の実りに他ならない。
クリチコ兄弟のK2プロ社長からゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)らのアメリカでの売り出し、軽量級興行 “スーパーフライ” シリーズなどで手腕を発揮したトム・ロフラーは、2018年末にHBOがボクシングから撤退した後、ゴロフキンのアドバイザーを務める傍ら、こつこつと小興行を続けてきた。ハリウッド伝統の小劇場、ゴルフ場のクラブハウスを経て、現在はLA近郊コマースカジノ、ニューヨークのマディソンスクエアガーデン・シアターとこのチュマシュの3会場で定着。そんな中で育ったのが、この3月にWBC暫定スーパーウェルター級王者になったセルゲイ・ボハチュク(ウクライナ)であり、いまその後を追うのが今回のメイン・イベンター、カラム・ウォルシュ(アイルランド)である。
〇…現在WBC米大陸スーパーウェルター級チャンピオンであるカラム・ウォルシュの防衛戦10回戦。無敗の23歳が迎える挑戦者は、39歳のメキシコ人、カルロス・オルティス。今回が20戦目、勝ちはすべてKO勝ちというセールスポイントをもって4度目のアメリカ遠征である。ウェルター級では無敗ホープの頃のアレクシス・ロチャやブレア・コッブスらに敗れているが、今回のサウスポー対決はさらに早い決着となった。開始からウォルシュが重そうなコンビネーションでオルティスを下がらせる。183センチの恵まれた体格が、より大きく見える。初回終了間際には、右ショートフックでオルティスをダウン。2ラウンドが始まり、打ち合う姿勢をみせた39歳に、ウォルシュは容赦なかった。右フックから左をフォローしてダウンを追加した後、最後は左ストレート一発で仕留めてしまった。「彼が強打者だとわかっていたけれど、僕も強打者だから。お客さんが望むものをお見せしたまでです。フレディ・ローチのもとで日々進化し、タフなスパーを重ねています。このベルトを守り、世界ランクを上がっていきます」。 欧州アマ王者からアメリカに渡り、ローチの門下で2021年末にプロデビューして以来、これで11戦全勝9KOと戦績を伸ばした。昨秋のニューヨークデビューでは最終回にダウンを喫し、初めて10回フルに戦ったが、それも本人が言うとおり貴重な「経験」。世界ランカーとしてこれから厳しくなる競争で、生きるに違いない。オルティスは20戦14勝(14KO)6敗。

〇…今興行の話題の一つが、元オリンピアンのライト級ホープ、カルロス・バルデラス(アメリカ)の再出発。PBC傘下からトップランクを経て、今回がトム・ロフラーとの契約初戦になるはずが、対戦相手が計量で約4.5kgもオーバーしたため、“デビュー”は7月の同社興行に繰り越された。
リオ五輪前、World Series of Boxingの実績により、全米予選を制したテオフィモ・ロペスのアメリカ代表入りを阻んだのが、このバルデラスだった。2017年春、鳴り物入りのプロデビューから順風そのもの。ところが、ハンドスピードに長けた正統派ボクサーは節目の10戦目で初黒星を喫し、PBC傘下から離脱。トップランクに移籍し、軌道に戻ったかに見えたが、昨夏、曲者ナイア・オーブライト(アメリカ)に僅差判定0-2で2敗目がついた。トップランクからリリースされ、再び立ち上がる27歳に手を差し伸べたのがロフラーだ。1週間前の公開練習ではキレのいいミット打ちを披露し、「トムに感謝している。これから始まる自分の新章にわくわくしているんだ。今までで一番、ボクシングに真剣に取り組んでいる。謙虚な気持ちで取り組んでいる。これからの僕を見てほしい」と思いを語ったものだ。そしてやがて、話は違う方向へ。「日本のメディアって言ったよね? ナリマツを知ってるだろう? 彼は僕を一番苦労させたボクサーだ。リオの後、トウキョウにも出たんだからやっぱりすごい。彼は引退したの? プロにならず? でも僕にとって彼が一番強いボクサーであることに変わりはないよ」。バルデラスはリオ五輪ライト級で成松大介(自衛隊体育学校)にポイント勝ちしている。日本人を見つけて持ち出した話であったとしても、ベスト8入りを賭けて緊迫の3分3ラウンドを戦ったベテランサウスポーのその後を彼が気にかけていたことは間違いない。「やっと人として成熟したと感じている」という27歳。7月26日にリスケジュールされた次戦を楽しみに待ちたい。

〇…セミに繰り上がったフライ級8回戦は、見ごたえ十分。360プロと契約する無敗の22歳ダニエル・“チャッキー”・バレラ(アメリカ)にとって、すでにタフファイトを経験してきたクリスチャン・ロブレス(アメリカ)とのフルラウンドは、過去イチでハードな時間だっただろう。パワージャブで先制したバレラに、2回にロブレスが右ヒットから猛攻。接近戦を仕掛けた。ボディを叩いて展開を変えたいバレラは、5回に左目上をカットするアクシデントにも見舞われる。しかしこの逆境からの立て直しが素晴らしかった。右カウンタ―を狙い、手ごたえをつかむと間髪いれず連打をフォロー。右ショートのヒットを重ねて終盤を制し、77対75×2,79対73の3-0で勝利した。「クリスのことは何年も前から知っていて、ベストな自分で臨まなければならないと覚悟していた。チームで十分な準備をし、カットもあり得ると思っていたから、対応することができた」と語った22歳は、8戦7勝(4KO)1分。落ち着いて、礼儀正しい受け答えが印象的な若者は、「ナオヤ・イノウエ、ジュント・ナカタニ、ほかにもたくさん」、日本の軽量級スターたちの戦いから多くを学んでいるという。今年すでに3戦というハイペースで、8月31日の次回チュマシュ興行にも登場予定。ホープとして名が挙がる日も遠くないと思わせる好ファイターだ。ロブレスは11戦8勝(3KO)3敗。

〇…360プロとの契約初戦となる女子ボクサー、グアダルーペ・“ルピータ”・メディナ(アメリカ)は、強気な20歳。アシュリー・フェリックス(メキシコ)とのミニマム級6回戦で、スタートから連打で攻め入る。両者引かずバッティングも頻発し、3回にはフェリックスの額がぱっくり切れて血まみれの戦いとなった。それでも打ち合いは激しさを増すばかり。左右スイッチしながら見栄えのいいパンチを出し続けたメディナが58⁻56×2、60⁻54でジャッジ3者から支持されたが、奮闘するフェリックスも大きな声援を集めていた。メディナは7戦7勝(2KO)。フェリックスは7戦4勝(1KO)3敗。
