[熱闘REVIEW 6.29] レジェンド“ガヨ”沈めスーパーフライ新旧交代完了――“バム”の時代。

ロドリゲスが7回にボディでエストラーダを悶絶KO (Credit: Amanda Westcott/Matchroom)

 WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチが6月29日、アリゾナ州フェニックスのフットプリントセンターで行われ、挑戦者ジェシー・“バム”・ロドリゲス(アメリカ)がチャンピオンのファン・フランシスコ・“ガヨ”・エストラーダ(メキシコ)を7回3分00秒でノックアウト。同級リングマガジンチャンピオン、殿堂入り確実のレジェンドをダウン応酬の末に左ボディで悶絶させ、10カウントを聞かせる見事な勝ちっぷりで、“スーパーフライ”キングの新旧交代を高らかに宣言した。かつて保持したWBC115ポンドの王座に返り咲いたロドリゲスは、20戦20勝13KO。一度はダウンを奪い返し意地をみせたエストラーダは、1年半前にローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との王座決定戦で再戴冠した王座の初防衛に失敗。戦績は48戦44勝(28KO)4敗。 

写真_アマンダ・ウェストコット、メリナ・ピサノ 文_宮田有理子

Photos courtesy of Amanda Westcott/Matchroom, Melina Pizano/Matchroom TextYuriko Miyata

 あのエストラーダがキャンバスをのたうつ。倒した“バム”は、微笑んだ。

「なぜだかわからない。ただ、彼を倒したことがうれしかった。立ち上がってくると思ったし、立ち上がってきたら打つって心の準備はしていたけれど。だからつまり、ああ終わったんだ、と」。

レジェンドを倒し、新旧交代を高らかに宣言 (Credit: Melina Pizano/Matchroom.)

 360プロのトム・ロフラーが仕掛け、様々なドラマを生んだスーパーフライの流れを汲むWBC同級タイトル。ビジネスが大きくなって複雑に動いた王座を巡り、導かれるように実現した新旧対決だった。

 大方の予想がパウンドフォーパウンド・トップ10の仲間入りを果たしている24歳に傾いた。スポーツブック“ドラフトキング”の掛け率もエストラーダ+350、ロドリゲス-475で挑戦者有利である。WBCスーパーフライ級王座を返上した後、フライ級に下げて昨年末にサニー・エドワーズ(イギリス)とのWBC・IBF統一戦に大勝したロドリゲスは堂々と、歴戦の大家エストラーダの名をコールしたものだ。戦いを前に、同じ帝拳傘下の“チョコラティート”・ゴンサレスと3度スパーリングセッションを持った。「36ラウンドも戦っている彼がエストラーダを一番知っている人に違いない。とてもいい準備ができた」と自信をみなぎらせるロドリゲスは、木曜日に行われた最終の会見で「キャリア、人生で最大の戦いになる。自分にも、家族、4月に生まれたばかりの娘にも大きなドアを開いてくれる戦いだ。ファンもこの試合の意味を知っている」と、泰然と語っていた。

 一方で、不利の予想を知るエストラーダも澄んだ表情で会見に臨んでいた。数々の大舞台を潜り抜けてきた34歳は、年齢に加え長いブランク明けであることが、人々が勝利を疑う理由だと承知している。「歳をとりすぎているという声に抗ってみせる。厳しい戦いを47戦経験してきた。今回もその一つ。インテリジェンスを使い、まだこの競技でエストラーダがビッグなことができるって示してみせる。私の“経験”が、この戦いの大きな要素になる」と自信を語ったうえで、「チョコラティートがもし4階級目のバンタム級を獲るなら、それを追いかけてもいい」と、ロマゴンとの第4戦にも言及した。しかし。日本の世界4階級制覇者・井岡一翔(志成)との対戦プランが立ち消えて結局、1年半ぶりの実戦リング。その影響は少なからず見えた。そしてもちろん、童顔のベテランキラーは、さび落としの猶予など与えないのだ。

高速のやりとりの中でロドリゲスがヒットを重ねていく (Credit: Amanda Westcott/Matchroom)

 緊迫の駆け引きが開始ゴングから始まる。いきなり“ガヨ”、“ガヨ”の大合唱に、ファンの変わらぬエストラーダへの尊敬が感じられる。サウスポーのロドリゲスと前の手で間合いを測り、先にエストラーダが仕掛けて出たが、初回終盤に左カウンターをヒットしたロドリゲスが2回から圧しを強めた。ひりひりの攻防を展開しながら、3回にはエストラーダをコーナーに詰め、左フックに右アッパーを合わせてみせる。今回、2週間ほど前に行われた公開練習でエストラーダ対策の肝を「ディフェンス」と言い切ったロドリゲスの言葉が思い出された。パンチをもらわない技術。すなわちミスを誘ってそこにヒットを狙う攻防一体。それを24歳の俊才は実行している。達人エストラーダに優る賢さで。

 エストラーダのコンビネーションが冴え出したように見えた4回だった。ラウンド終盤、ロドリゲスが左アッパーをヒット。右から左ストレートをつないでダウンを奪う。続く5回にはエストラーダの反撃をダックでかわして懐に入り、アッパーをまとめ打ち。ハイピッチの攻防の中に左ストレートをいくつも差し込んだ。

 このロドリゲスのワンサイドで、試合は決着を迎えるかと思われた。しかし、レジェンドはレジェンドたるゆえんを見せるのだ。6回に入ってほどなく、エストラーダがワンツーでバムの出端を叩いてノックダウン。メキシコ色の会場が大興奮に包まれた。エストラーダの誇りと意地、リングでのみ能弁な戦士が敬愛される所以だ。

分厚い経験を誇るエストラーダは意地をみせる。6回にはダウンを奪い返した(Credit: Amanda Westcott/Matchroom)

 だがこのダウン。エストラーダ逆転の狼煙ではなかった。「不注意になっていた」と、兜の緒を締めたロドリゲスが、攻勢をかけるエストラーダに多彩なパンチをリターン。エストラーダの左目周辺が腫れてくる。そして迎えた7回だった。リング中央で展開するハイクオリティのやり取りの中に、左ボディアッパー。右を打ったエストラーダの死角から脇腹を叩いた左が、とどめになった。

エストラーダを倒し、バムは微笑んだ(Credit: Melina Pizano/Matchroom.)

「タフな戦いだった。初めて倒されたから動揺した。でもリングでは常に未知の経験にあると自分に言い聞かせている。強い相手と戦うことが強くなる道。レジェンドと戦い、彼のベルトを奪えて光栄です」。WBCとリング誌ベルトを肩に、勝者は語った。契約には再戦条項が添えられたようで、敗れたエストラーダは「自分が犯した過ちは理解している。再戦したい」と明言した。ロドリゲスの方は、再戦契約が履行される可能性を認識しつつ、7月7日に日本で行われる115ポンドの統一戦、WBO王者・井岡とIBF王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)の行方に注目していると話した。インタビュアーのクリス・マニックスが言及した井上尚弥(大橋)とのマッチアップについては、プロモーターのエディ・ハーンが「ファンタジー」と、大方の見方を代弁したが、これからロドリゲスの行く手に日本人の対抗王者が数多存在することは間違いない。あどけない少年の容貌のまま難題を次々と鮮やかにクリアしていく“バム”・ロドリゲスの次のアナウンスメントが待ち遠しい。

1年半の空白から厳しい戦いを受けて立ったエストラーダは再戦を望んだ(Credit:Amanda Westcott/Matchroom)
<WBC王座の動き>
2014年5月 カルロス・クアドラス(メキシコ)がシーサケット・ソールンビサイ(タイ)から王座奪取、V6
2016年9月 ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)がクアドラスから王座奪取
2017年3月 シーサケットがゴンサレスに初黒星与えて王座奪取、返り咲き。V3
2019年4月 ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)がシーサケットから王座奪取。ゴンサレスに勝ってV2の後、ゴンサレスとの直接再戦を優先するためWBCフランチャイズ王者に
2022年2月 “空位の正規”王座決定戦。病欠のシーサケットに代わり出場したジェシー・ロドリゲス(アメリカ)がクアドラスに勝って新WBC正規王者に。
2022年6月 WBCが義務付けた防衛戦でロドリゲスがシーサケットに勝つ。
2022年9月 ロドリゲスはV2後、王座を返上してフライ級へ。
2022年12月 その空位の正規王座をかけてエストラーダがゴンサレスと3度目の対戦。判定勝ちで王座へ回帰。
(2023年11月 クアドラスがペドロ・ゲバラ(メキシコ)に勝って空位のWBC暫定王座を獲得)
(2024年5月 ケガのクアドラスに代わりゲバラがアンドリュー・モロニー(オーストラリア)を下しWBC暫定王者に)

○…セミファイナルに組まれたフライ級12回戦。サニー・エドワーズ(イギリス)対アドリアン・クリエル(メキシコ)は、元世界王者同士、再起戦同士の興味深いマッチアップだったが、バッティングによるエドワーズの眉間の傷で9回スタート時のドクターチェックで続行不能の診断が下った。90対82、88対84、87対85の3-0で勝利し、大ブーイングの中で勝者インタビューに答えるエドワーズは、「この途中終了に誰よりがっかりしているのは僕なんだ。どのラウンドもしっかり戦い、はっきり勝っていたし、相手をスローダウンさせてもいたんだから。またここに戻って、観客が望む戦いをみせたい」と語った。

 昨年末にアメリカ初上陸、同じアリゾナ州の隣町グレンデールで行われたジェシー・ロドリゲスとのWBC・IBF世界フライ級統一戦で好スタートを切り、9回終了後に棄権するまで全力をみせファンに称えられたが、今回はアクションを望むファンにフラストレーションを溜めさせた。しかしそれが元々エドワーズのスタイルではある。足を使い、ヒットの手には力を込めてジャッジにアピールしながら、“メヒコ・コール”に後押しされて懸命に前に出るクリエルを、嘲笑うようなアウトボクシングを展開し続ける。中盤、クリエルがボディを打って突っ込むと、6回にエドワーズの眉間が大きく切れて大出血。ロドリゲス戦での古傷ではない箇所だが、9回開始時のドクターチェックで続行不可の診断が下された。

 現在WBCフライ級3位のエドワーズは22戦21勝(4KO)1敗。IBFライトフライ級6位にランクされるクリエルは、31戦24勝(5KO)6敗1分。最終記者会見があった木曜日の朝にビザを手にしてアメリカに滑り込んだが、再起戦を勝利で飾ることはできなかった。昨年11月に、IBF世界ライトフライ級王者シベナシ・ノンティンガ(南アフリカ)を右クロスで倒した大勝利は、2023年最大の大アップセット&KO劇の一つだった。今年2月の直接再戦で10回にストップされたが、再び輝く姿を見たい好漢だ。

アウトボクシングの末に負傷判定でエドワーズは大ブーイングを浴びた(Credit: Melina Pizano/Matchroom.)

○…WBC女子スーパーバンタム級タイトルマッチ10回戦では、チャンピオンのヤミレス・メルカド(メキシコ)がラムラ・アリ(ソマリア)を3-0の判定で下し、8度目の防衛に成功した。メキシコの女王への盛大な声援の中で始まったタイトルマッチは、挑戦者アリがじわりとプレスして右クロスを狙い、2回に右クロスから左フックをヒットする。しかし、メルカドは崩れない。2021年8月にフェザー級で3冠女王アマンダ・セラノ(プエルトリコ)に善戦するなど、大舞台での経験が大きく上回る女王は、左ジャブを前に巧みにスペースを作る。3回に“アリ”コールが聞こえると、それが合図のようにチャンピオンは攻撃の手を強めた。後半に入ってアリのクリーンヒットがメルカドを弾く場面があり、ヒット率では挑戦者が上回ったかに見えたが、アグレッシブさでジャッジにアピールしたメルカドに軍配が上がった。採点は98対92、98対93、97対93。

 メルカドはこれで27戦24勝(5KO)3敗。2019年11月にファツマ・サリカ(ケニア)から奪った王座を守り続けている。世界初挑戦に敗れたアリは、11戦9勝(2KO)2敗。ソマリア難民で実は正確な誕生日も不明という。逃げ延びたイギリスでボクシングを始め、2020年10月にプロのリングを踏みながら、東京五輪にも出場した。2023年6月にアレハンドラ・グスマン(メキシコ)に痛烈なKO負けを喫して、5ヵ月後の直接再戦で判定勝利。今回の舞台に臨んでいた。

経験豊富なメルカド(左)はペースの取り方を心得る(Credit: Melina Pizano/Matchroom.)
世界初挑戦のアリ(左)は高ヒット率もボリュームを欠く(Credit: Melina Pizano/Matchroom.)

○…WBC米大陸スーパーバンタム級チャンピオン、アルツロ・カルデナス(メキシコ)にフェニックスの隣町グレンデール出身のサウスポー、ダニー・バリオス(アメリカ)が挑戦する10回戦。地元のはずのバリオスに向かうブーイングを聞くと、今日ここは“メキシコ”なのだと実感する。さて。ジェシ・ロドリゲスと同じロベルト・ガルシア門下のカルデナスが様子見に徹する初回、バリオスがサウスポースタンスから上下に仕掛けた。様子見のはずがやや出遅れた感のカルデナスは3回あたりからエンジンをかけて、大柄な体躯からクリーンヒットを重ねる。それでも単発気味で山場に欠けた試合は、8回にカルデナスの強振にバリオスが果敢に打ち返してにわかに会場が沸いた。が、初10回戦のバリオスは終盤2ラウンドをアウトボクシングで過ごし、ブーイングのうちに試合終了。採点は95対95 97対93、96対94の2-0でカルデナスの初防衛となった。戦績は15戦14勝(8KO)1分。バリオスは16戦15勝(5KO)1敗。

○…第3試合バンタム級8回戦にはガブリエル・ムラタヤ(アメリカ)が登場。ロベルト・ガルシア門下のムラタヤ兄弟の兄の方で、ライト級ホープの弟レイモンドともども無敗を守っている。が、今日の相手、ベテランのカルロス・フォンテス(メキシコ)は骨があった。10年前の8回戦時代に国内でルイス・ネリと戦ったことがあるサウスポーは5年5カ月ぶりのリングながら上体を柔軟に使って手もよく出る。ペースをつかみきれないムラタヤはギアを上げて見栄えのいいコンビネーションをヒットさせ、79対73、78対74、77対75とジャッジ三者から支持を得た。幼稚園教諭との二足の草鞋を履く30歳、ムラタヤの戦績はこれで12戦12勝(6KO)。フォンテスは28戦23勝(19KO)4敗1分。

ベテランサウスポーに苦戦を強いられたムラタヤ兄(左)(Credit: Melina Pizano/Matchroom.)

○…第2試合ウェルター級6回戦に出場した地元フェニックスのサウスポー、ファビアン・ロホ(アメリカ)は、ダニエル・ゴンサレス(アメリカ)を初回から重そうな左ストレートで倒すと、2回に2度のダウンを追加。豪快に倒しきって2回1分13秒、KO勝ちを収めた。無敗の22歳ロホは、これで9戦9勝7KO。初KO負けとなったゴンサレスは7戦5勝(2KO)2敗。

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