[熱闘Review 1.17] 晝田瑞希アメリカ・デビュー。1年ぶり実戦でV3

 WBO女子世界スーパーフライ級チャンピオンの晝田瑞希(三迫)が1月17日、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス近郊のコマース・カジノで同級5位の挑戦者、マリベル・ラミレス(メキシコ)を迎えて3度目の防衛戦を行い、8回42秒負傷判定3-0で勝利した。2023年4月に初めてマニー・ロブレスJr.トレーナーの指導を仰いで以来5度の長期キャンプを重ね、チームの結束を固めて臨んだアメリカデビュー戦。10年以上前に日本で藤岡奈穂子(竹原&畑山)と拳を交えたベテラン・メキシカンにスタートからジャブで圧力をかけて2回にダウンを奪い、4回には右フックで左目上を切り裂いた。8回序盤に起きたバッティングでドクターチェックを経て試合は唐突に終了となったが、内容はワンサイド。得意のバックフリップも披露してアメリカ初戦を締めくくった。晝田はこれで7戦7勝2KO。ラミレスは30戦15勝(3KO)11敗4分。

Photos:Lina Baker/360Promotion  Text:Yuriko Miyata

 晝田瑞希の個性はアメリカのリングにも、こともなくフィットした。

 CALL ME MIMI、マント型ガウンで大々的に自己紹介しながら、美少女戦士セーラームーンのテーマに乗ってリングに向かったピンクヘアのサウスポーは、終始笑顔。コールを受けて見事ガウンを宙に舞い上げ、華やかに歓声を集めたあとは、高いボクシングスキル、シャープな攻めで会場をどよめかせた。

「初めての環境で、でもそれで緊張するとかは全然なかったんです。それより、リングに上がってからゴングまでがあっという間すぎて、それにびっくりでした。アメリカに来てからジムでも、はい今からスパーって言われて対応する耐性ができていたのでよかったです」

 開始から、右ジャブで距離を保ちながら挑戦者ラミレスにプレスをかける。左ストレートから右フックを返してメキシカン挑戦者をフロアに這わせること2度。いずれもスリップと判断されたが、2ラウンド終盤にはそのコンビネーションでカウントを聞かせると、攻撃のピッチを上げていった。ラミレスの右に左を合わせ、3回終盤には左好打からラッシュ。4回には鋭い左ストレートを上下に送り込み、右フックできれいにラミレスの左目上を切り裂くと、続く5回は序盤から畳みかけ、返り血で真っ赤に染まった。しかし、38歳になる挑戦者ラミレスはタフだった。激しい流血で顔を血だらけにしながら懸命に打ち返し、チャンピオンの顔面を左フックでとらえる場面もある。2013年3月に東京・後楽園ホールのリングに立ち、藤岡奈穂子とのノンタイトル戦で4回にKOされたメキシコ人はその後も世界のトップクラスと戦い続けてきたのだ。 

 そんなベテランを、スピード、キレ、攻めのボリュームで圧倒しながら、レフェリーのストップがかからずラウンドが進むうち、晝田は少し不安になったと言う。 

 2023年春に攻撃力強化に定評のあるロブレス・トレーナーの門を叩いて以来、2連続ストップ勝ちをマークした。持ち前のアウトボクシングに加えて、中間距離の攻防技術を学び、ファイトスタイルに変化が見えた。昨年1月に後楽園ホールでパク・ジフン(韓国)を6回TKOに破ったV2戦のあとも、ロサンゼルスに赴いてボクシングを磨き、ビザ取得に動き、満を持して迎えた今回のアメリカデビュー。はじめて新天地の師をチーフに、晝田の取り組みを十分理解する加藤健太トレーナーがサブに付き、晝田もコーナーの声はよく聞こえていたというが……。

「どうして止めてくれないのか、表情からは相手の心が折れかかっているのもわかるのに。そうするとだんだん自分に自信がなくなってきて。自分の得意な部分をもっと作った上での、プラスの部分。でないと、全部が中途半端になると感じました。このチャンスが有難くて、いいパフォーマンスを見せたい、KOしようという気持ちが強すぎたかもしれません」

 とはいえチャンピオンのワンサイドは変わらず、7回にロープ際からリング中央に出て左右ロングフックを振ったのが、ラミレス最後の奮闘となる。8回開始から間もなく起きたバッティングでラミレスが痛みを訴えると、ドクターチェックの末に試合は終了となった。バッティングによる続行不能で、記録は8回42秒負傷判定。80対71が二者、残る一人が79対72という採点で、チャンピオンが防衛に成功した。

 試合が終わるや否や大泣きし、笑顔で迎えるロブレス・トレーナーを驚かせたチャンピオンは、涙のわけを振り返る。

「いろんな感情がまじった涙でした。もっとできたという悔しさと、知らないうちに自分にかけていたプレッシャーからの解放と。ほんとうにいろんな方々のおかげでこの舞台に立てて、ぜったいにいい勝ち方をして、組んでよかったと思ってもらいたかったんです。でもやっぱり、これはすごいチャレンジだったんだとわかりました。たくさんスパーリングはしたけれど、実戦は実戦。スパーとは違う。1年のブランクの意味って、こういうことなんだと」

 トム・ロフラー率いる360プロモーションが、新プラットフォーム、UFCファイトパスと組んでから初めて開催した世界タイトルマッチだった。かつてゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)をアメリカでスターダムに導き、シリーズ“スーパーフライ”で男子軽量級に光を当てた敏腕にとって、晝田は新たな“スーパーフライ”。

「ミズキについて、私のもとには様々な反響が届いている。パフォーマンスはもちろん、リングコスチュームでもバックフリップでも見る人を楽しませてくれた。UFCファイトパスも、アジア圏での視聴が伸びたと言って喜んでいる。彼女は次なる日本人スーパースターになる可能性をもっている。ナオヤ・イノウエ、ショーヘイ・オータニのようなと言うべきだね」

 晝田のアメリカデビューは当初、指名試合になる予定だった。ロフラーはWBOがオーダーした指名挑戦者カルラ・アエリン・メリノ(アルゼンチン)陣営との交渉も行い、ビザ手配が間に合わないことがわかると、WBOに選択防衛戦を挟む許可をとりつけた。今回の防衛成功を受けて、4月興行での指名試合実現へすでに動いている。

 ちなみに現地ロサンゼルスのラティノによると、スペイン語で“Mimi”は“眠る”という意味だという。「相手を眠らせるボクサー、最高のニックネームね!」とのこと。もっとも、日本からやってきたMimiはまったく寝ている場合じゃない。忙しい2025年になりそうだ。

〇…セミファイナルの晝田vsラミレス戦に続いて行われたメインイベントは、WBC米大陸フェザー級タイトルマッチ。地元ロサンゼルスはボイルハイツ地区出身のチャンピオン、オマール・トリニダード(アメリカ)が経験豊富なフィリピン人マイク・プラニアを大差判定で下して王座を守った。深入りしないプラニアのスタイルもあって平坦なフルラウンドではあったものの、長身からのジャブを軸に距離をコントロールしつつ機をみてまとめ打ちするトリニダードが終始優位を譲らず、ジャッジ二者がフルマーク、残る一者も99対91という採点で勝利した。2018年のデビュー戦で引き分けに終わり一度はボクシングから遠ざかったものの、1年ほどで練習再開。同門の世界王者ダニー・ローマンのスパーリングパートナーを務めて自信をつけ、2022年からトム・ロフラーの定期興行の常連となった。ローカルスターから昨年世界ランク入りを果たし、10月には初12回戦でIBO王者エクトール・ソーサ(アルゼンチン)からダウンを奪って判定勝ち。現在IBF2位、WBC6位につけ、「どのチャンピオンでも、チャンスをくれさえすれば戦う準備がある」という29歳は、19戦18勝(13KO)1分。昨年1月に世界2階級制覇を果たす前のアンジェロ・レオ(アメリカ)にKO負けして以来の黒星を喫したプラニアは、36戦31勝(18KO)5敗。

〇…この日は世界戦の他に二つの女子ノンタイトル戦があった。一つはライトフライ級の8回戦、グロリア・ムンギアブルック・シブリアンの地元ライバル対決。二人とも、日本の女子と縁がある。シブリアンはアマチュア時代に、ロサンゼルスでトレーニング中だった藤岡奈穂子とスパーリングする機会があった。昨年10月にプロデビューし、360プロ傘下での2戦を含め5連勝だったが、今回はメキシコで喫した初黒星からの再起戦。一方のムンギアは、直近のキャンプで晝田のスパーリングパートナーを務めた小柄なタフガールだ。オマール・トリニダードと同門。昨年3月にプエルトリコに遠征し、アマンダ・セラノが売り出す若手クリスタル・ロサドオルティスに敗れるも、3ヵ月後には再出発。今回は再起2戦目となる。ともに初8回戦だったが、忙しい攻防のなかムンギアが主導権を握った。先手を出し、ヒットのあとはしっかりフォローアップ。シブリアンの目を腫れさせ、鼻血を出させ、終盤は手数で圧倒した。77対75×2,79対73の3-0で勝利したムンギアは、8戦7勝1敗。2連敗のシブリアンは7戦5勝(2KO)2敗。

〇…ボクシングマガジンの2024年版パーフェクトガイドで触れたローカルボクサー、スーパーウェルター級のジョシュア・ケビン・アントン(アメリカ)が360プロモーション興行に初登場した。191cmの長身サウスポーで、バージル・オルティスJr.(アメリカ)やセルヘイ・ボハチュク(ウクライナ)らとのスパーリングでも巧さが目を引く無敗の26歳だ。目利きとして知られたマネージャー、故キャメロン・ダンキンに見出されて2019年にプロデビューしたが、試合の機会に恵まれぬまま静かに袂を分かったという。「このチャンスに感謝します。必ずよいパフォーマンスで次につなげたい」と微笑んで言う言葉に切実感が漂った。リングに上がったアントンはやはり素晴らしいスキルを見せた。ステップと右ジャブで巧みに出入りしながらコンスタントにヒットを重ねた。しかし、KOにつなげる糸口を探し続けるものの、相手が相手だった。ラスベガス拠点のキャメロン・クレールは、クラブファイト界隈では知られた曲者。一見では負け越し選手に見えない。とにかく戦い慣れている。とくに今回は6回戦、サバイブするのは朝飯前だっただろう。結果は、アントンのフルマークの判定勝ち。これを機にもっとスポットがあたることを願う。戦績は9戦9勝8KO。クレールは58戦21勝(7KO)34敗3分。

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