堤聖也vs比嘉大吾IIその4
文_加茂佳子 Text by_Yoshiko Kamo
写真_山口裕朗@finito22

堤の気持ちの強さはずば抜けてる、絶対に心を折らない、と比嘉大吾は断言した。
比嘉に一瞬でも隙を見せたりリズムに乗せてしまったら恐ろしいことになる、と堤聖也が確信を持って言った。
試合の展開について聞いた時、2人は示し合わせたように同じ反応をした。
質問を聞いた途端、2人ともが心底嫌そうな表情を浮かべ、
「絶対体力勝負。絶対激しい打ち合いになる。考えただけでうんざりする。考えたくない」
と言った。
だって、
「気も力も手もまったく抜けない3分が、最長12回も続くんですよ?」
武居戦の後、いい試合が出来たから辞めると言った比嘉は、いい試合をしてしまったから復帰することになったと今は言う。勝負を賭けきれなかった前戦に、そして10年間のボクシング人生にはっきりケリをつけたい。そのために今回は勝負に行くと言い切った。
今回の取材中、堤聖也は、チャンピオンとしてだとか、王座を守る、とは一度も口にしなかった。
世界王者になったから、また振り出しに戻って挑戦者のマインドで挑んでいく。その姿勢が俺の強さだと思うから、と言った。
「この試合にかける気持ちは比嘉も間違いなく強いと思う。ただボクシングにかける覚悟は、かけ続けてきたこの覚悟は俺の方が強いと思ってる。‥‥負けたくないっすね」
そして堤は言った。冗談じゃなくて俺、お客さんが心配ですよ。
俺らの試合観たら絶対疲れ果てると思うから、その後の試合を観る元気が残ってるかな、って。
ゾッとした。
どんな覚悟でもってどんな試合をしてみせるというのか。
堤は、俺の、試合ではなく、俺らの試合と言った。比嘉が腹をくくって向かってくることを堤は疑っていない。
どっちが勝とうが、お互いどうなろうが覚悟の上の恨みっこなし。それはあいつも同じだと思う。
そう同じことを2人は言った。
「でも全部終わったらどうせ仲良くメシに行くんで、俺ら」
2025年2月24日 堤聖也vs 比嘉大吾Ⅱ
最後に取材者の私見を書かせていただく。私はこんな友情のあり方を他に知らない。
もうこの二人はチャンピオンベルトよりも遥かに価値のあるものを手にしてるんですね。
9Rが始まる前の堤&石原トレーナー、比嘉&野木トレーナーのやり取りの辺りから何か目に見えない凄味みたいなものが両選手から感じ取れました。
そしてその目に見えないものの正体はきっとこの2人でしか作り出させないもののような気がします。
試合はこの記事のとおりになりましたね。
お互い相手を出し抜こうとも、欺こうともせず、真正面からぶつかって相手を打倒しようとした。
その結果、両者勝ちと言っても良いドローでした。
血まみれ、汗まみれ、傷だらけ…それでもキラキラ輝く宝石みたいなドローでした。
観客も巻きこんでサイクロンが吹き荒れれば、何度地を舐めても必ず立ち上がる怪獣が迎え撃つ。
お互いがお互いを高め合うような、称え合うような、そんな試合でした。