[熱闘REVIEW 5.10] 裁定に大いな疑問もナバレッテは王座守る ムラタヤが無敗のまま暫定王者に

 5月10日、カリフォルニア州サンディエゴのペチャンガ・アリーナで開催されたトップランク興行で、WBO世界スーパーフェザー級チャンピオンのエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)が同級1位の挑戦者チャーリー・スアレス(フィリピン)に8回1秒負傷判定勝ちで4度目の防衛に成功した。7回にチャンピオンが負った左目上の傷に3度目のドクターチェックで続行不可能の診断が下ったもので、その傷が偶然のバッティングによるものと州コミッションは判断したが、会場のスクリーンで何度も再生された映像でも明らかに有効な打撃によるものと確認でき、記録が修正される可能性を残した(※)。ダブルメインで行われたIBF暫定ライト級王座決定戦では、同級4位のレイモンド・ムラタヤ(アメリカ)が2位のザウル・アブドゥラエフ(ロシア)に大差判定勝ち。去就を明確にしないIBF正規王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を待つ間に設けられた暫定王座(※)を、無敗のまま手に入れた。

写真:マイキー・ウィリアムス/トップランク 文:宮田有理子 Photos:Mikey Williams/TopRankBoxing Text:Yuriko Miyata

乱打戦はナバレッテの負傷で続行不能に。傷はパンチかバッティングか

 面目躍如。互いにビッグパンチを振るい合うメインイベントは、すべて判定勝負のアンダーカードに黙りこくっていた観衆を興奮の渦に引き込んだ。

なんとか体重をつくって漕ぎつけた防衛戦でナバレッテは苦戦

 36歳にして念願の世界初挑戦に辿り着いた指名挑戦者スアレスが大きなフックを振って、試合はスタート。これが16度目の世界戦となる世界3階級制覇者ナバレッテは冷静にかわし、独特の間合いを生む長い上下コンビネーションで、早くも観客の“メヒコ”コールを誘った。メキシコ国境に接するこのサンディエゴでも、この豪放なパンチャーは大の人気者なのである。ただし今回は、体調面でファンたちをも心配させただろう。これまでに増して130ポンドをつくるのに苦労したチャンピオンは、再計量でパスも、フラフラのギリギリ。試合はできるだけ早く決着をつけたかったに違いない。

 二人はフルスロットルでビッグパンチを交換した。大柄なナバレッテの迫力にひるむことなく、空振りもかまわず、攻め入るスアレスの奮闘に、観衆はどよめいた。サンディエゴは元々、大きなフィリピン・コミュニティを持つ土地柄。母国の元軍人であるスアレスの勇敢なアタックは、サポーターたちも誇らしかったに違いない。3回からさらにギアを上げて左右を振った挑戦者が、チャンピオンをロープに押し込む場面もつくる。一進一退の乱打戦は、6回に突入。そして、事件は起きた。二人の攻防が交錯し、ナバレッテの左瞼上から出血。ドクターチェックののち試合は続行され、傷を負った王者は攻めに逸った。そこへスアレスが左右スタンスを変えながら長短あらゆる角度から右を差し込んだ。インターバル中、スクリーンに再生された映像で、傷はパンチによるものであることが判明。大流血で視界難が明らかなナバレッテをスアレスが圧倒した7回を経て、8回開始と同時のドクターチェックで続行不可能の判断は下された。

36歳の挑戦者スアレスは怯まず攻め、大健闘をみせたが…

 だが問題はここからだった。有効打による傷で終了なのだから、本来ならスアレスのTKO(カリフォルニアではKO)勝利があるべき結論。だが、長い待ち時間ののち発表された裁定は、バッティングで負った傷による続行不能で、負傷判定、というもの。1秒で終わった8回(三者とも10対10)も含むスコアが集計され、77対76が二者、78対75が一者の僅差3-0で、ナバレッテに軍配が上がった。「不運にも頭が当たって起きたことで終わった。相手がサウスポーになって自分が頭を下げ、互いに手を出したところで頭があたった。今まで戦った中では5本の指に入るくらいの強敵だった。彼のおかげで私もいい戦いができた」と、4度目の防衛を果たした王者は語り、“決着”をつける再戦や転級については、「これから話し合うこと。でも再戦は歓迎だ。この先があったはずの戦いだから」とした

 一方のスアレスは「左構えにして出した左で切ったものだ。リプレイを見ればわかること」と言うものの、その場で反論をしなかったのは「私たちはレフェリーの決定に従うしかないから」。「いい試合だったと思う。もし試合が続行されていたら、ノックアウト勝ちできたと思う。ナバレッテのパンチはそれほど強くなかった。再戦をしたい」と、ひじょうに控え目な様子の敗者は希望を語った。カリフォルニア州コミッションは映像確認を採用していないとはいえ、判断が難しい場合、テレビに映し出された“資料”を無視する必要はない。戦ったボクサーたちが正当なジャッジメントを得ることが、何より大事なはずである。

※その後、スアレス陣営がコミッションに疑義申し立てを行ったと報じられ、6月2日の討議の結果、カリフォルニアコミッションは試合結果を「無効試合」と変更。当該承認団体WBOも追って二人の再戦をオーダーした。裁定が正しくなかったことは認められたとはいえ、スアレス側が負った誤審の代償はあまりに大きい。

ムラタヤは終始スマートに戦い切る

自分の距離を守り、速くて上手い攻防で終始試合をリードしたムラタヤ

 ダブルメインで行われたIBF暫定世界ライト級王座決定戦では、大々的な声援を背にする同級4位レイモンド・ムラタヤ(アメリカ)が、ロシアからはるばるやってきた同級2位ザウール・アブドゥラエフ(ロシア)との技術戦で着々とポイントを積み重ね、ベルトを巻いた。

 先手をとったのは、大声援を浴びて登場したムラタヤの方だった。立ち位置を変えて多彩な左を散らし、右のタイミングをうかがう。そのテンポは2回からどんどん上がっていった。3回からは左構えへのスイッチもまじえ、距離を保ったままでアブドゥラエフをコントロール。焦れるロシア人が手を出せば、ムラタヤはすかさずカウンターをとった。

 ロベルト・ガルシア門下でボクシングを磨き、高い技術を落ち着いた試合運びの中に見せてきたムラタヤ。ヒヤリとさせられたのは2年前の初10回戦で、無名のウンベルト・ガリンド(アメリカ)にいきなり倒された時か。その試合ものちに2度のダウンを奪い返して9回KO勝ちして傷にはならず、それからもトップランクの入念なマッチメイクもあり順調にキャリアを積んできた。今回、待望の世界王座初挑戦も、多くがムラタヤの手堅い勝利を予想しただろう。しかしアブドゥラエフのメンタリティが、どこまでも不気味だったのもたしかだ。デビン・ヘイニー(アメリカ)とのWBC暫定王座決定戦で鼻を折られ、コーナーに座ったまま4回で初黒星を受け入れたのは2019年9月だった。プロ初遠征で味わった屈辱から、再び国内競争から泥臭く勝ち上がった。その10連勝の中には、元世界王者のデジャン・ズラティカニン(モンテネグロ)とロヘル・グティエレス(ベネズエラ)への勝利、そしてあのホルヘ・リナレス(ベネズエラ=帝拳)への最終回ストップ勝ちも含まれる。もう一度、世界の舞台に立って汚名を濯ぐためにそうやって這い上がった。その経験の厚みも執念も、この、期待される新鋭との戦いにぶつけてくるはずだった。

6年ぶり、世界の舞台に再び這い上がってきたアブドゥラエフだったが

 ムラタヤのぺースで序盤が進み、4回、ロシア人は左ジャブに力を乗せて反撃をしかけようとする。5回にも左ボディから右ストレートを3連発、ここから一気に主導権を奪いにいくか。しかし、大きなうねりにはならなかった。ムラタヤは崩れなかった。ハンドスピードと手数の差で上下をしっかり打ち分けて、優勢のままラウンドを重ねていく。初めて経験する11ラウンド以降に、強い右アッパーを突き上げ、手数も落とさず、フルラウンドを戦い切った。

 採点は119対109が二者と118対110の3-0。内容どおりのスコアだった。

無敗のまま世界のベルトを巻いた28歳、ムラタヤ。左はバンタム級で戦う兄ガブリエル

「アブドゥラエフは強かった。彼は常に戦おうとしたし、そう来るとわかっていた。だから、私は自分の技術を生かし、彼を遠ざけ、一ラウンド一ラウンド獲っていくことを徹底したんだ」と暫定チャンピオンは試合を振り返った。この時点でロマチェンコの去就は決まっておらず、もし大ベテランのウクライナ人が現役続行といえばまず、統一戦が義務付けられる。「今回の勝利で、ワシル・ロマチェンコの指名挑戦者になったと思っている。彼と戦えること、彼の名が自分の戦績に残ること、とても光栄だ」。無敗の28歳。その義務が解けた先には、同世代の階級トップタレントたちが待つ。好カードが続々実現することを願いたい。

※…6月初頭、ロマチェンコは自身のSNS上で引退を表明。北京・ロンドン両五輪で金メダル獲得。最速プロ12戦で世界3階級制覇といった記録に留まらず、その超絶技巧で一時代を築いた英雄が、静かにリングに別れを告げた。21戦18勝12KO3敗。ロマチェンコの引退により、ムラタヤがIBF正規王座に昇格した。

○…WBC、WBOウェルター級13位のサウスポー、ジョバンニ・サンティリャン(アメリカ)はアンヘル・ベルトラン(メキシコ)に10回判定勝ち。採点は三者とも77対73だった。ちょうど1年前に地元のこの会場でブライアン・ノーマン(アメリカ)とのWBO暫定ウェルター級王座決定戦(テレンス・クロフォードの返上をもって正規王座に)に敗れ、今回は再起2戦目。「必要なものだった。同じ場所で12か月後に、あの悪夢を払い落とすことができてよかった。やはり地元の人々の興奮を感じて戦うのは特別だ」という通り、大きな声援を浴びた地元のヒーローだが、ベルトランの出入りにペースをとられ、やや強引に攻勢をアピールする、難しい戦いだった。2023年秋に敵陣に乗り込んでアレクシス・ロチャ(アメリカ)を6回KOに討ち取り、WBO1位の座を強奪。世界初挑戦で喫した初黒星から、再びのチャンスを求めて戦い続ける33歳。

初黒星から再起したサンティリャン

○…女子スーパーフライ級4回戦で、元トップアマのパーラ・バザルデュア(アメリカ)がモナ・ウォード(アメリカ)にフルマークの判定勝ち。ミケーラ・メイヤー、セニッサ・エストラーダに続くトップランク社3人目の女子契約選手となった19歳で、昨年12月にプロデビューした後に同社と契約を結び、今回がトップランク興行デビューとなった。相手の長身サウスポー、ウォードも好選手ながら、バザルデュアは右ストレートから左ボディフック、さらに右ストレートと、長短問わずコンスタントにパンチをつないで試合を主導した。ロサンゼルスはサウスセントラルの出身で、マニー・ロブレスに長く師事。一昨年にドイツの国際大会で優勝したほか、アマチュアで15の全米タイトルを持つ。女子世界5階級制覇の藤岡奈穂子(竹原&畑山)とのスパーリングで引かず渡り合った時はまだ14歳だった。今回は、いまやジムメイトであるWBO女子世界スーパーフライ級チャンピオン晝田瑞希(三迫)とのスパーリングで、対サウスポーに備えた。アメリカ最大手プロモーションが手掛ける3人目の女子ホープに注目だ。バザルデュアは2戦2勝1KO。ウォードは2戦2敗。

トップランクと契約した3人目の女子選手バザルデュア

○…今夜のオープニングファイトに、激戦区メキシコのスーパーバンタム級の注目株セバスチャン・エルナンデスが登場。昨年9月のトップランク・デビューからの2戦目で、元世界トップ・コンテンダーのアザト・ホバネシアン(アルメニア)に判定勝ちを収めた。採点は三者とも98対91(9回、ホバネシアンはホールディングで減点1)。ライト級相手にも一撃KOをするなどビッグパンチャーとして鳴らすエルナンデスも、タフネスの代名詞のようなベテランを仕留めきれず、プロ3戦目から続いた連続KOが17で止まったものの、優勢は明白だった。大柄な体格と旺盛な手数でホバネシアンを下がらせ、近距離でも左右アッパーで上下を打ち分けた。世界挑戦一歩手前で後退したものの戦い続けるホバネシアンは、被弾が続くと懸命に打ち返して無事をアピール。フルラウンドを踏破した。WBC10位のエルナンデスは、20戦20勝18KO。ホバネシアンは27戦21勝(17KO)6敗。

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