[熱闘REVIEW 8.15] 晝田瑞希がV5達成。「毎ラウンド、自分を奮い立たせて乗り越えた」

美少女戦士セーラームーンがテーマの今回の衣装は、トム・ロフラーのオフィスに飾られることに

 8月15日、アメリカ・カリフォルニア州サンタイネスのチュマシュ・カジノで行われたWBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチで、チャンピオンの晝田瑞希(三迫)が挑戦者ナオミ・カルデナス(メキシコ)に10回判定勝ち。タイトル5度目の防衛に成功した。今年1月のアメリカデビューからこれで3戦3勝。年内にもう一戦を予定しており、男女通じても世界で最も高頻度で戦う世界チャンピオンとして、評価を上げ、存在感を増している。

Photos:Lina Baker/360 Promotions Text:Yuriko Miyata

WBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ 2分×10回戦>

〇 晝田瑞希(三迫)チャンピオン、9戦9勝2KO

[判定3-0]100対90×2 98対92

● ナオミ・カルデナス(メキシコ)10戦9勝2KO1敗 ※体重超過で王座挑戦資格失う

圧巻のV5だった。徹頭徹尾、超絶ハイピッチの動きを止めず、荒々しく突っ込む無敗のメキシカンを封じ切った。5月の前戦ではWBO指名挑戦者カーラ・メリノ(アルゼンチン)に力の差を見せつけた上で米リング誌チャンピオンの認定も受けており、今回の完勝によって同誌女子パウンド・フォー・パウンド(PFP)トップ10入りの議論にも浮上。識者たちをしてミズキ・ヒルタについて語り合いたくなるパフォーマンスだった

 試合開始から、左右フックを振って出るカルデナスを、晝田はリング中央に立ってさばいた。ジャブ、左ストレート、右フック、2回にはボディへのアッパーも。見事なコンビネーションで、高回転で進む攻防を支配した。

「1ラウンド目、やりにくいな、と思ったのは、アメリカ初戦の時と同じ。思った以上にパンチがあるし前に出てくるな、と。でも、今回はそういうネガティブな感情が出てきても、そっちに引っ張られないように自分を奮い立たせて。1ラウンドずつをクリアしていく感じで、そのおかげで気持ちが切れずに戦えたと思います。試合は長く感じましたけれど。練習でしっかりスパーリングをしてきたからそれができた。キツい練習が、自分を強くしてくれたとおもいます」

 なりふり構わぬ相手の圧力、激しいコンタクトにも乱されず、しっかり動いて打たせず打てたのは、積み重ねた練習の賜物に他ならない。今年3戦目。チャンピオンは休む暇もなく、この8月15日に向かってきたのだ。

 5月17日のメリノ戦から日本帰国後、6月頭にはオーストラリアの同級選手リン・サンドストームの訪問を受けてスパーリングを再開。世界挑戦へ向かう友人に胸を貸した。スパー継続を要望され、初めて南半球にも飛んだ。ロサンゼルスにいるマニー・ロブレス・トレーナーからの電話で、カルデナスとの防衛戦が決まったと知らされたのは、そのキャンプ中だ。日本に戻ると数日で再び機上の人となり、ロブレスらアメリカで待つチームに合流した。

 ロサンゼルス郊外で名将が主宰するノックアウト・ボクシング・ファシリティ・ジムはいまや、晝田の「ホーム」である。元トップアマから2022年末にプロ4戦で世界王座に就いた翌春、さらなる進化を求めて飛び込んだ場所。ジムワーク、スパーリングはもちろん合同ランニング、フィジカルトレーニング、全ての練習メニューに全力を注ぐチャンピオンは、コーチ陣やジムメイトたちと固い絆を築いた。

 今回も、試合まで1ヵ月強の集中キャンプ。スパーは3人を相手にした10ラウンドを週3度。ロブレス・トレーナーは愛弟子にあえて重い階級の選手と向き合わせ、カルデナスの突進に備えさせた。

 今回の挑戦者がいわゆるブルファイター型であることを、師弟は承知していた。2階級上でも戦った経験を持ち、6月の前戦でアメリカ初登場ながら無敗のバンタム級ブリー・ホーリング(カナダ)を判定2-1で下す番狂わせを演じている。

 だが、そうして得たこの世界初挑戦の舞台で、チャレンジャーは体重超過の失態を犯した。試合前日計量を、晝田は114.8ポンド(52.0kg)でパスしたが、長い髪をバッサリ切って臨んだカルデナスは116.4ポンド(52.7kg)と超過。再計量でも115.8ポンド(52.5kg)と、0.8ポンド(約400g)のオーバーで、タイトル挑戦資格を失ってしまった。ハードな練習と減量を両立させて体を絞った晝田の憤りは、当然だ。

「体重を作ることは、殴る相手に対するリスペクトそのものだと思うんです。人を殴るんです。条件は公平であるべき。カルデナスは強い相手でした。でも、計量に失敗するような人に、負けません」

 試合中盤を過ぎても、チャンピオンのハイペースは落ちなかった。どんどんクリーンヒットの数は増えた。7回に脚をひっかけられてスリップダウンしたが、傍からは動揺はみえなかった。

「後半、相手が疲れてきているのがわかりました。だからパンチをもらっても効かないというのがわかって、より自分のペースで、自信を失うことなく、“自分の方が動けているかもしれない”と思うことができました。もし余裕の感じを出されていたら、自分は焦ったかも。やっぱり、顔に出しちゃだめなんだと思う。ジムでいつもキツい時に“スマイル!”ってマニーが言ってくれるのは、そういうこと。相手の顔、見てたもんな…今回。絶対、自分は顔に出さないぞ、と思いました」

 出入りのフットワーク、ジャブを軸にしたコンビネーションは最後まで冴えわたった。集中力は途切れなかった。試合終了のゴングが鳴るまでは。

 戦いを終え、リング中央でアナウンサーが告げる結果を聞きながら、涙がこぼれ落ちた。悩み、必死で自分に前を向かせた日々がよみがえり、感情があふれ出た。

 特別な、戦いだったのだ。

 神足茂利選手は、友人だった。4月には偶然、ロサンゼルスでのキャンプ期間が重なり、一緒にビーチを走った。「スーパースターになりたいね」。夕暮れの海沿いを走りながらそう語り合った「シゲ」は、遠く離れた日本の地で命の火を燃やし尽くした。8月2日、後楽園ホールで行われた王座初挑戦、東洋太平洋スーパーフェザー級タイトルマッチの結果を知り、緊急搬送されたことを知り、生還を祈り続けたが、「シゲ」は逝った。自分が防衛を果たしたその足で帰国すれば、葬儀に参列して見送ることができたかもしれない。だが悩み抜いた末に、自分の信条を貫いた。いつもと同じ、試合後の予定は決めずにリングに集中した。

「今回、母からは、生きて帰ってきてと言われました。本当にそう。殴り合って、体も頭もいっぱいぶつかって、冷静になるとあっちもこっちも痛い。試合後のホテルで、大丈夫かな、って、怖かったです。無事でよかった。命がある、それだけでありがたい。シゲは、本当にスーパースターだと思う。私は、とにかく今を生きる。生きて、それを叶えたい。彼が嫉妬するくらいに」

 プロモーターのトム・ロフラーは、アメリカに着々とファンベースを築くチャンピオンに、すでに次のプランを告げている。晝田にとって怒涛の2025年はまだ終わらない。対戦候補には日本に縁のある名前が挙がっている。

 

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