1月16日、パームデザートのアクリシュア・アリーナで開催された、全カリフォルニア州の2026年ボクシング初興行は、やはりゴールデンボーイ・プロモーション、プレゼンツ。ロサンゼルスの英雄オスカー・デラ・ホーヤと西海岸を代表する大プロモーションにとっては、新年初イベントの開催は使命とするところでもあっただろう。その目玉にセットしたのが傘下内のウェルター級ライバル対決、アレクシス・ロチャ(アメリカ)対ラウル・クリエル(メキシコ)のリマッチだった。2024年12月にウェルター級世界ランカー対決、同級サバイバル戦として行われ、ドローに終わった一戦の13カ月ぶりの再戦だ。ところが公式計量を前にロチャが体調不良に陥り、ドクターストップ。同興行でスーパーウェルター級戦を予定していたジョーダン・パンテーン(アメリカ)がクリエルの相手を急遽、務めることになった。そのほか試合当日にも不可解なキャンセルがあり、波乱だらけの2026年開幕戦だったが、ボクシング初招致のアイスホッケー場に集まったファンの声援は温かかった。

Photos courtesy of GOLDEN BOY / CRIS ESQUEDA, Text: Yuriko Miyata
今回の会場、アクリシュア・アリーナは、アイスホッケーNHLシアトル・クラーケンの下部チームであるファイアーバーズの本拠地だ。ゴールデンボーイの定期興行があったインディオ、ファンタジースプリングス・カジノからは数マイルの近所で、ボクシングは初招致。屋内とはいえ氷の競技場が砂漠地帯のオアシスにあること自体が興味深いが、同地でも1月ではまれな摂氏30度の陽気となったこの日、フロアの空調は冷蔵庫のような白い冷気を吐き出していた。
そんな環境で行われたラウル・クリエルとジョーダン・パンテーンによるメインイベント、10回戦。アレクシス・ロチャのドクターストップが計量前日に明らかとなり、混乱の中で決まった代替え試合だったため、ウェルター級(66.6kg)のクリエルは70.5kg、スーパーウェルター(69.8kg)のパンテーンは71.3kgで計量を終え、ミドル級戦として行われることになった。「その影響はあった」と、試合後に語ったクリエル。実績では相手に大きく優っていても、分厚い体躯にダメージを与えるのには時間を要した。インファイトを展開し、得意の左右アッパーで上下を叩いてポイントを確保しながら静かにラウンドを重ねていく。それでも、新会場に集まったファンが誠実にそのボクシングを見守っていたことがわかったのが、9回。クリエルの右カウンターでパンテーンが腰砕けになった、にわかに訪れた今戦唯一の山場に、ドッと会場が沸いたのだ。その声援は最終回の打ち合いも包み込み、フルラウンドが終了した。採点は二者が97対93、残る一者が98対92の3-0で、クリエルが無敗の戦績を18戦17勝(14KO)1分に伸ばした。2連敗のパンテーンは13戦11勝(9KO)2敗。
「パンテーンは強い戦士だから、いい戦いを人々に見てもらえたと思う。ミドル級だったけれど、なんとかKOしようとベストを尽くした。ボディを効かせて、少しずつ崩していこうと思ったんだ。今日、試合ができたことに感謝している。とてもよい準備ができていたので、戦いたかったんだ」と語ったクリエルは、ロチャと引き分けた後にフレディ・ローチ門下からロベルト・ガルシアのもとに移り、今回コンビ2戦目だった。リオ五輪ウェルター級メキシコ代表から2017年にアメリカでプロデビューして、9年目。コロナ禍後は試合間隔が開きがちの元ホープは、「どのチャンピオンでもいい。世界タイトル挑戦のチャンスが、今年こそはほしい」と訴える。と同時に、今回実現しなかったロチャとの再戦も、可能性を否定しなかった。「ロチャの回復を祈っている。リングに上がるまでの調整、体重を作ることがどれだけ苦しいか、知っている者同士なんだから。もしまたオファーがあれば、僕としては拒む理由はない。でも何より望むのは、世界タイトルのチャンス」。話せば誰もが好きになる好漢クリエルに、2026年が念願成就の年になるかどうか、見守ろう。

〇…メインイベントの変更によりチケット払い戻しも可能だったこの興行で、1万人近く収容の会場が8割がた埋まったのは、前座をつとめた地元ボクサーたちの貢献に他ならないのだろう。その筆頭が、セミファイナルのカリフォルニア州スーパーバンタム級王座決定戦に登場したサウスポー、マヌエル・“グッチ・マニー”・フローレス(アメリカ)だ。ホルヘ・チャベス(メキシコ)との10回戦は、クリエル対ロチャと同様に引き分け再戦。ゴールデンボーイ・プロ擁する若手対決として半年前にファンタジースプリングス・カジノで行われ、ドローに終わった第1戦に続き、インディオのジョエル&アントニオ・ディアス門下のフローレスの地元で開催された。大応援団をバックに開始からプレスをかけたフローレスが、ロープを背にするチャベスにタイムリーなヒットを重ねた序盤戦。だが、チャベスが3回後半になって強い右カウンターをヒットし、ハイピッチの攻防に持ち込むと、潮目が変わった。フローレスの前進を逆手にとるチャベスが軽やかな出入りに乗せてこつこつとパンチを当てていく。7回にはフローレスの動きがガクッと落ち、チャベスの勝利は明白となっていった。採点は96対94、97対93、98対92の3-0。
無敗を守ったチャベスは、16戦15勝(8KO)1分。かねてから井上尚弥を深く尊敬していると話す26歳は、「イノウエ対ナカタニ、どっちが勝つ?」と記者たちに問われて「イノウエ」と即答していた。フローレスは23戦20勝(16KO)2敗1分。アマチュア時代に中谷潤人と対戦したと言う。

〇…ディアス門下のウズベキスタン人、ルスラン・アブドゥラエフがプロ4戦目。エドゥアルド・アブルー(ウルグアイ)とのスーパーライト級8回戦で、5回2分59秒KO勝ちを収めた。頑丈そうなアブルーを、ロングジャブを軸にしたコンビネーションで切り崩していったウズベキスタン人は、3回、4回、5回に一度ずつダウンを奪ってみせる。それでも続行を望んだアブルーをロープに追って攻め立て、レフェリーストップを呼び込んだ(カリフォルニア州ルールではKO)。23歳の元オリンピアン、アブドゥラエフは4戦4勝(2KO)。アブルーは18戦14勝(10KO)2敗2分。

〇…DAZN放送の第一試合、スーパーウェルター級6回戦に登場した19歳のホープ、ケイデン・グリフィスは、レスター・エスピノ(ニカラグア)を相手にプロ入り後初めてフルラウンドを経験した。じっくりエスピノを観察して2回には右クロスでダウンを奪い、地元ファンを沸かせたが、そこから大振りに逸って逆に耐え切られてしまった。採点は三者とも60対53のフルマーク。ディアス・ブラザーズのもとで十代半ばからトッププロたちとのスパーで揉まれてきたグリフィスは、7戦7勝(6KO)。世界中で戦う35歳エスピノは、17戦10勝(8KO)7敗。

〇…ウェルター級の大型新人ジョエル・イリアルテ(アメリカ)は、試合当日になって試合が飛んだ。対戦予定で計量もパスしたジレ・デ・ロス・サントス(アメリカ)がなんでも、「神が戦ってはいけないと言っている」と言って戦前撤退したというのである。信じられないような言い訳だが、現地関係者に言わせると「珍しくないフレーズ」だそうだ。